第36章 私達だけの世界
甘酸っぱい微炭酸のノンアルカクテルを口にしながらそういえば、と七海から硝子へと視線を移した。
『この前の高専内で鳴り響いた、アラートの犯人どうなったんですか?』
高専に侵入者が入り込んで、しかも倉庫に侵入したって話。
犯人は複数人だったけど、その犯人は運悪く盗もうとした呪物で数人減ってしまった、とか聞いている。私はその場に近付く事は出来ず、部屋で悟が警戒する中で彼に守られていたから又聞きなんだけど。
マドラーでくるくると自身のグラス内のカクテルをかき混ぜながら、硝子の視線は私に向けられている……最近になってから忙しくなってきたせいか、硝子の目元には昔みたいな濃い隈が出来ていた。次のシフトの時に彼女にはしっかりと休んで欲しいなあ…。
「犯人は五人居たんだけど、うち三名は呪物の餌食になったよ、つまりは受肉体になったって事だね」
『受肉……、それ、大丈夫なんです?呪物に、なんですよね?』
基本は呪いっていうのは非術師に見えなくて、カメラなどにも映らず呪術師は最低でもそれを見る事が出来るけれど。受肉するとカメラにも映り、非術師にも普通に見えてしまう。呪術師からしたら厄介な相手なのは間違いない。
硝子は「大丈夫だろ」と軽く笑ってズキュッ、とカクテルを早速飲んでる。
硝子の続きを相手するのは七海。彼のグラスはもう半分ほど減っていた。
「私も実際に立ち会いましたが特に敵意は感じられませんでしたよ。三名というか二名と一体と言いますか…」
『一体…?曖昧ですね、それ』
「ハルカさん、九相図というものをご存知ですか?」
七海の言葉に脳裏に浮かべるもの。それはとある掛け軸。美術館で見たっけなあ、割とグロかった気がするんだけど。
うん、と頷き私はグラスに手を触れる。随分と結露が凄い。
『前に美術館で見ましたよ、常設ではなくたまたま特別展示してたのを立ち寄ったんですけど……人が死後、屋外でどの様に朽ちていくかを九段階に分け、描かれているもの…ですよね?
仏教美術っていうんですか、そんな感じの…』