第36章 私達だけの世界
「あ゙あん?」
『悟、ステイ。話が進まない』
「そんなカッカするなよ、悟……、自分でも分かってるだろ」
腕を組みながら背もたれに体を預ける悟。明らかに苛ついてる。普段見る表情よりもなんというか、過去の若い悟を思い出すような怒りや面倒くささを顔に出す彼は大きなため息を吐いて。
「……ちゃっちゃとあの野郎を始末すれば良いだろ。死ぬつもりでハルカに接触しに来てんだ、どうせ情報も吐かねえよ。治療ならともかく拷問とか、ハルカの血が勿体ない……アイツ、生かす価値なんて無いでしょ」
彼の話を静かに聞き終えた傑はお茶を飲み、その湯呑みの中を眺めてる。眺めたままに冷静に「だからさ、」と続け、顔を上げた。真剣な表情はいい加減に分かれ、と言いたそうでもある。
「可能な限りこれまでの担当者が尋問、そして拷問をするけど。情報を吐かない場合はあの男にハルカの殺害命令もしくは依頼をした人物の情報は途絶えるって事なんだよ。今回はたったひとりの犯人だったが、次はどうなるか分からないだろ」
「……僕が、なんとしてでもコイツを守る。僕だけの家族を守るって決めたんだ」
静まる中で傑は湯呑を持ち呷る。にこ、と微笑みごちそうさま、と流しに片付けて部屋から出ていこうとする前に、足を止めて振り返る傑。
「私も可能な限りは手を尽くす。情報が出ない時は悟、キミはキミの家族を死力を尽くして守るんだ…いいね?」
私の隣で呆れたように笑った悟はテーブルに頬杖をついて傑の背中を眺めてた。
「……言われなくてもそのつもりさ。死んだら元も子もないでしょ……それから先のハルカを守れない」
「そうだね…、私が心配する所じゃなかったか」
ふっ、と笑う横顔を見せた傑。彼はお邪魔しました、と部屋から出ていき、私達の部屋はふたりだけになってしまった。
隣の悟を見ればいつになくぼーっと真剣そうに考えてる彼。その横顔を見つめていれば瞳が大きく見開き、急にガタ、と立ち上がる。
……きっと傑の後を追いかけるんだ。そう察して私は彼の腕を咄嗟に掴んだ。
驚いた顔をした悟は優しい表情をこちらに向けて瞳を瞬いてる。
「なに?」
短く聞き返すけれど、似たような状況で私は不安にさせられた事があったから。だからぎゅう、と掴んだ腕は離さない。
『……また、私を置いていくの?』