第36章 私達だけの世界
ピリ、とした空気。同じテーブルを囲んだ私はふたりのやりとりに居た堪れないんですが……。
私的に心臓や首などの、直接狙って命に関わる箇所にダメージを与えなければ、ちまちまとした痛みを相手にやっていけば良いんじゃないの?とは思っているけれど。そんな事をこの空気の中で軽はずみで言ってはいけないというのは理解してる。
指の数本程度なら悟も嫌々許可を出すかもしれないけれど、私が自他の"負"を相手に流し込めば血を失うって事。それは順調に育つ子供にもなんらかの影響を与えてしまうかもしれない。
罰祟りで失った血を自身の式髪での治療では再生出来ないっていうデメリットなのだし。
ふたりの会話になにか言葉を発しようとした私の口は開いたはいいけれどすぐに閉じた。何を言うべきかって分からなくなって。
私と視線が合った傑は今度は悟をまっすぐと見てる。
「私も悟達の子供に影響が出るほど拷問を頑張るな、とは言える立場ではないけれど…」
「……けど?なんなわけ?何が続くんだよ、その後に」
すう、と傑の呼吸音。完全に静寂となった中で彼はゆっくりと唇を開いた。
「何度も痛めつけ拷問をし最終的に情報を吐かせるのと、最終的に死ぬまでの回復無しの拷問。どっちが情報を吐きやすいと考える?私は長引く方が堪えると思うんだけど。
……情報は今後を考えたらあったほうが良いのは明らかだ。あの男が自分でやろうって思って行動をしたんじゃない、金銭を対価に貰い誰かに命を差し出せと指令を受けているんだ」
『……私を攫った先の、術式の利用ではなくて…殺すのを目的にした相手の考え、を聞き出すのもですよね』
怪我を治し続ける為に、誰かを痛めつける為に。そしてそれらの力を受け継ぐ子供を作る為にと狙われている。そういう狙われる一族なんだもん、一人で行動は許されない。
殺すために、は今回初めて経験するパターンだった。その理由として誰かに手に渡らないように妨害するよりもそもそも存在しなければ良い、とかそういうのくらいしか分からないけれど。
「ハルカは悟のように人を苛立たせる人格では無いからね」
サラリと言ったその一言に片腕を机に着き、前のめりになる悟。別に傑は悟に喧嘩を売ったわけじゃないんだけれど、垂らした釣り針の餌に悟が食いついてしまったみたいだった。もはや入れ食い。