第36章 私達だけの世界
驚いた顔もせず、ただ傑は頷く。キッチンに立ちこちらを振り返っていた悟も手を止め、やはり話が気になるのか…。お湯を沸かしながらお菓子を机に置き、手際よく来客対応を済ませた彼は私の隣の椅子をギィ、と音を立て引き摺ってどっかりと座る。
式を邪魔して私を殺そうとし、止められなければ悟はじっくりとおの男を殺してた…だからなのか、あの瞬間を思い出したのか悟は不機嫌そうに態度が悪くなってる。
「あンときの野郎かー…もうアイツの尋問とかしたのか?」
悟との付き合いが長い分傑は気にしてないみたいだけど…。
「ああ、拷問ってほどではない理性ある尋問をね。まあ優しい対応だったからね、痛みも大切なものの命を脅かす事もしていないから結果は出せていないんだけれど……」
その言葉で尋問では情報が得られなかった事を理解した悟は不機嫌そうにチッ、と舌打ちをした。
「初手から痛めつけなきゃ駄目でしょ…上品にしていちゃ簡単に情報は吐かない、ただ口で聞いてもすっとぼけるだけだ」
「相手は死ぬつもりで行動していたからね。繰り返す身体の欠損の治療に硝子は首を振らないだろ?」
「だからって俺のハルカを拷問に使いたくねえよ……、今のコイツに流れる血液はハルカだけじゃなくて腹の子にも大事なんだよ……傑。なあ、分かるだろ?」
お湯が湧いてきたのか、音楽もテレビも付けていない部屋、沈黙をシュー…という、沸騰の音が静けさをかき消す。その中でストレスを感じた悟はシャリシャリと後頭部を掻いてる。
頭の中が色んな考えで忙しそう。お膳立てをしてくれたのだし、お茶は私が、と椅子から立ち上がって三人分のお茶を注ぐ。トレイに乗せた湯呑み、トレイごと机に持っていくと傑は柔らかな笑みでありがとう、と。悟もいつものような優しい笑みでありがと!と元気にそう言って、私も再び椅子に座った。
ガサガサとお菓子を漁る悟。チョコレートを手にとって口に頬張ってもこもこと頬に入れて小さく砕いてる姿は、ハムスターやリスみたいで可愛い…。
「…欠損してもそのままで良くない?どうせ死ぬつもりだったんだから生に未練はねえだろ」
「悟がハルカの事を大事にしてる事は皆が知ってるよ。だから、拷問に至る場合ハルカの術式を使う事を拒絶するだろうって事も予想してる」
「断られるって分かってんならなんでゴリ押ししようとしたんだ?」