第36章 私達だけの世界
「あんだって~!??ハルカっ!なにっ聴こえないっ!声が遅れてくるのかなっ!?いっこく堂のマネ!?動作だけで音声が正常ではございませんけど!音声用の配線大丈夫っ?」
「おかか…」
「うるせえぞ悟とハルカ」
私叫んでないのに…っ!とパンダと狗巻からの不条理な注意を受けて小さくウィッスと返事をするしか出来ない。トホホだよ、肩もがっくり落とすわ。悟の声帯ボリューム機能、硝子にも治せないからなあ……、生まれつきのバグだもん。叩いても治らないだろうし。
「……で、先生とハルカでここになにをしに来たのよ?ハルカは学生じゃなく今は事務と医務室勤務…、学生のテストみたいなものはないでしょ?なんかの資格とかあるワケ?」
急に隣の野薔薇からの質問に振り向き、ここに何をしに来たかを探られてしまって言葉に悩む。言い訳なんて出来ないし(悟が居るし)正直に言っても予想通りの展開になりかねない。携帯の小さなサムネ並ぶ一覧じゃ細かい所も確認出来ないもん。
事後の写真の他に多分頬にキスしてるのとかもあったかも……、それらをすぐには抜き取れないし、序盤の数枚見せてはい、終わり!も許されない。まだあんだろ、作業してけよルート入るっしょ。
『えっ、あー…うーん』
言い淀む中で野薔薇から離れた席の悟を見ると嫌になるくらいの満面の笑み。あれはガムテープで口を塞いだ方が良いな。余計なことペラペラ話し出すから。
机に置いた分厚い紙袋。仕分けをまだかと出来上がって受け取ってからまだ確認をしてないもの。
印刷会社のロゴが印刷され中身は勿論見えないけれど、その会社のロゴだけで中身が写真だって誰にでも分かると思う。それを野薔薇は「なにこれ?」と素早く私の目の前から掻っ攫っていった。
『あっ』
「写真じゃん……分厚っ、随分プリントしてきたのね~…どれどれ…、」
写真の束をごそっと半分ほど取り出している野薔薇。最初に見えるのは料亭の全体を収めた写真。確認してないけど確か、最初はそんな感じの写真頼んだハズ……!
これ以上写真が目に晒されないように取り出そうとする野薔薇の手を抑え、目が合った瞬間に私は首を横に振った。
『ダメ、絶対』
眉を下げてケチと言わんばかりに不服そうに、彼女は紙袋と写真から手を離さず動作はそのまんま。