第36章 私達だけの世界
ほんのり甘い空気はどこへ。完全にレジャーモードになった私達は魚が跳ねたその近くに立ち止まり、じっと私が指差す方向を集中して見てる。
つっても相手は同じ場所で跳ねる機械的なものじゃない。たまたま立ち止まった場所はひとり先客が居たくらいでおじさんが私達を振り返り、静かに他の場所にと移動していった。
騒がしくてすみません、多分この人これからもっと騒がしくなります……。
にっこりと歯を見せて笑った悟は片手にバケツ、片手に竿を持っている。本当、纏う空気が少年みたいだな……。
「よし!ここを拠点としよう!それで良いか、ハルカ中尉!」
『サーイエッサー!』
「よし!では各自、」
『あっ、待って!』
気合の入った悟がバケツを降ろすか、というタイミングで止めて、私も渡された竿を地面に置き、急いで邪魔にならない肩掛けのバッグから携帯を取り出した。
……せっかくだもんね、ちゃんと記録も残しておかないと勿体ないじゃんね?
ふんふん、と笑みがどうしても溢れてしまう中で彼を見ると彼もにこにことしながら、動きを止めたまま待機してる。
「どったのー、ハルカ中尉ー」
『写真を撮る、であります!ほら、思い出は目に見えるように残したいじゃん?』
にっ!と笑って如何にも釣りをします!という道具と浮かれた顔をした悟に向けると彼は歯を見せていえーい!と笑った。カシャ、と一枚、バケツを置いて竿は持ったままにピースをしてのもう一枚。
記憶として頭に入れても手にとって見れるものじゃないから、携帯からの画像だとかプリントしたりして目に見える思い出として残したい。
撮り終わってしまおうとする私にハルカ、と声を掛けられて彼を見る。
「僕単品だけじゃ思い出として寂しいよ。新婚旅行なんだからここは夫婦で撮るべきだろ?オマエと一緒に撮るからこっち来てちょ」
『あ、うん。そりゃあそうだね~…』
もぞ、とポケットから取り出した悟の携帯。足元に注意しながら私が悟の側に寄れば彼が持ってた竿を「ん、」と持たされ、肩を寄せて片手で自撮りモードにしてる。
「はい、撮るよー?にーたすさんは何条ー?はい、五条ー!」
ホント独特な掛け声だなあ……と斜め上を向き、悟に肩を抱き寄せられて、竿を握る私と悟での一枚。
撮り終わって耳元でもう一枚、と小さく呟く悟はまだ携帯を構えてる。