第36章 私達だけの世界
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人の喧騒から離れた田舎での連泊。その旅館に届いたレンタカー車をしばらく走らせ、静かな森の中を彼の運転で車は走っていく……。
地方ラジオを音量を下げて流しながら、お土産は何にしよう?この辺の名物といったらアレだよね、と話して、「今キジが横切ったよ!?」と時にテンションの上がる目的地までの移動。
天気は気持ちの良い晴れじゃないけれど、梅雨時期だからって雨は窓に一粒も当たっちゃいない。天気予報の通り曇り空が続き、森からやがて砕石にロープとペグで駐車スペースを取っている、駐車場にとレンタカーを停車した悟。
「着いたよ~」
『運転ありがと。お昼が近いせいか他のお客さん結構居るねー』
川魚を釣り、その場で調理してくれるというレジャー施設にやってきた私達。
この時期はつつじの季節で、まるで壁のように迫ってくるような花々が綺麗なんだそう。本当はもう少し早めの時間に来たかったけれど、アラームオフにしての寝坊…からの揉み合い、更には朝から組み敷かれての運動……。
その後だらだら準備して出掛けたのだから時間が遅くなってしまったのは当たり前か。
悟が言っていた通り急ぐことのない旅で、この施設での釣りってのも時間がたっぷりあるのならいいのかもね?
森の奥、静かな中で車から降りて遅れてバムッ、とドアを閉めた私。それを確認した後悟は車の施錠を済ませた。
施設の入り口は私側にあり、手作り感のある木の幹を斜めに切った看板。炙り加工や手書きの文字が少し年季が入っているけれど、ツツジの季節の今、駐車場から見える緑にたくさんの鮮やかな花にお客さんは誘われるみたい。
そう施設を観察していると横に歩いてきた悟が「はい」と私の手を取り指を絡める。互いにぎゅっと軽く握り合って見上げた彼はふっ、と笑った。
「オマエ、お腹空いてる~?」
悟の質問に本日の朝食を思い出して。
のんびりした朝の後に食べたのだから少し遅い時間に食べたんだ。お腹が空いてるわけがない。
ただ食べたものはあっさりとした和食だったから消化は良いみたいでお昼の近い時間帯である今、釣って遊んだり調理時間を考えたら丁度良いタイミングなのかも。
『朝ごはんが遅かったからねー……でも食べられるかでいったら入るのは入るよ?』
「そっか、じゃあつつじ見て回るのは後にして釣りを先にやっちゃうか。って事で受付に行くよーん!」