第5章 "好き"が止まらない!
「その件なんだけれどさあ……、ちょっと歩きながらで良い?」
『えっ……うん、』
私の言葉を静かに聞き終えた後にすくっ、と立ち上がった悟は片手を差し出す。私の視界の手から悟の顔を一度見て私はその手に重ねた。ふざけてる表情じゃなくて、さっきみたいなハイになった表情でもない。とっても真剣だった。
そのまま立ち上がらされ、立ち上がる時に触れた手を離して遅いテンポでゆっくりとした散歩が始まった。
進む方向なんて特に決まってない、公園という空間をただだらだらと散歩するだけ。
「僕の事、キミは好きだった?正直に教えて欲しいんだけど」
またそういう質問か。
その答えは一度言ってる。可もなく不可もなく、だ。
その"か"と口を開けかけた所で悟は私の唇に二本の指を押し当てた。そうされたら開きかけた口も閉じるよ。
「僕はさ"可もなく不可もなく"っていう、当たり障りない答えをキミから聞きたいんじゃないんだよねー、聞きたいのはその……僕に恋愛感情的なものを向けていたのかって事なんだけれど?」
ぴたりと止まる悟の足。それに合わせるように私も足を止めた。
じゃり、と足元の砂を踏みしめて半歩悟は私に詰める。口元がほんのり笑っているけれど真剣な表情だった。
「はっきりと言って欲しいな」
───私は。
『………っ、』
今から口に出すのはそれは時すでに遅い告白。
笑われるんじゃないかと尻込みしながらの言葉。灰の中にまだくすぶってるそれを少しだけ仰いで火の粉を散らせたような感情。
『好き、だったよ』
目はとてもじゃないけれど合わせられない。
それに続く悟の声色は少し残念そうだ。
「ならどうしてさぁ~……。
好きならなんで僕を振ったの?嫌いって事じゃないんでしょ?」
『あの時の理由そのまま。悟が遊びで表面上の恋人を演じるなら、私が向ける好きって気持ちは意味が無いもん。意味のない関係を続けたって何も生まれる事はない、悲しいだけ。
悟に向けた感情を…──、』
もう遅い。もう少し早く言っておけばよかったのかも知れないという後悔、それはまるで透明な手が私の心臓を握りしめてるような。
伏せていた視線を上げる。背の高い悟の視線と合わさった。
『遊びで演じてる、あんたに笑われる事が何よりも恐ろしかったから』