第36章 私達だけの世界
彼の目の前でそっと畳に膝を着き、視線の高さが同じくらいで悟は笑いながら私の額に人差し指でとん、と優しく突く。
「んっふー!そうは言っても僕とイチャイチャするのが嬉しいくせに~?」
『はいはい…、そーだね』
……そうですけど何か?と当たり前の様にあぐらをかいた悟の脚によいしょ、と腰を降ろす。私の後ろからしっかりと腕を回して抱きかかえ、彼は首筋に顔をうずめていた。すんすん、と香りを嗅ぎすり寄る頬。悟の髪が素肌に当たる度にくすぐったい。
抱きかかえるそのたくましい腕に手を添えて私は悟の腕を撫でた。
『しかしまあ、健闘したねー、五日も休みが貰えてさ』
新婚旅行として五日間の休暇をもぎ取った彼。
その間は呪術師って事を忘れ、ただの五条悟と五条ハルカという、皆に認められた新婚の男女が仕事に邪魔されずふたりだけの世界に浸れる時間。
夢中ですりすりと首や肩に頬擦りする悟の頭に首を傾ける。頭がこつ、とぶつかり小さく音を立て、それでもショリショリ互いの髪が触れ合う中でスキンシップを止める気配のない彼。
「んー……学長にさぁ、一ヶ月休み頂戴!って言ってたんだけどね?夜蛾学長さ、直談判の最初なんて僕があまりに優秀過ぎる呪術師だからなのかな?皆忙しいから出発日含め三日だ!って冗談じゃない短さを提案してきてさ!そこからなんとか掛け合って二日分伸ばせたワケよ。
ケチだよねー…最低でも僕、ハルカとの新婚旅行の休みを一週間はもぎ取りたかったんだけど!」
……きっと豊洲の魚の競りでもするようにお互いに言い合ったんだろうなあ。特級呪術師という強い人材を忙しい時期に任務に組み込めないのは困る学長と、人生に一度きりであろう結婚式後の新婚旅行の日数を稼ぎたい悟。
頑張ってこの五日間を取った悟の頭を撫で回す。グッボーイ。撫で始めたら彼からの頬擦りは止み、撫でられる事に集中してるみたい。
ふふ…っ、悟のこういう所が可愛いって私は思うんだ~……。