第35章 縛りの儀
……今日も悟は舌が良く回るなあ。
学長は多分大丈夫だとして伊地知には絶対に脅しをしてる。悟の性格を理解してるからこそやってるな…と、この旅行でのお土産は伊地知には特別なものにしておこうっと。
かくん、と体が揺れて車窓の風景が横に流れ出す。
目的地へと私達を運び始めた新幹線。これから私は悟と任務のない、一般的な新婚旅行へ向かうんだ。行きたい所はたくさんあったけれど、ゆっくりとすることを優先した、悟が言うような甘い日々を送るふたりっきりの旅行……。
「ねえ、」と服を引っ張られて車窓から甘える悟へと視線を移した。
「本当だったらこの新婚旅行でさー、まだハルカが妊娠していなけりゃ一ヶ月休みを取って、毎日子作りに励んで由来通りのハニームーンを実行に移していた所だったんだけどさ、」
『そんな事されたら私の身体が壊れるね~、既にお腹に赤ちゃんが居て良かったー!』
への字の口を見せた悟。少し間を置いて柔らかい表情を浮かべた。それはまるでさっきから話に出しているはちみつみたいにとろっとろな甘い笑顔。
私の腹部に触れた手は優しくとんとん、と寝かしつけるみたいに何度も小さく叩く。
「……今はキミのお腹に僕らの宝物が眠ってるんだ。忙しくなる前にゆっくり休んだり、観光したり、楽しい思い出を作ってもっと夫婦仲を良くしていこうね?」
『うん……で、休み、何日?』
ふへへ…、とこの流れで聞いちゃおうって企む私に悟は意地悪な笑みを浮かべて「教えなーい!」と隠し続けてる。
いいじゃん、教えてくれたって!こちとら一日だけだとか、休めないんじゃないかって事を確認したいんだっちゅうの!
くっそー、じゃあこっちも出来るだけのことしてやるんだからねっ!とお腹を撫でる悟の腕をそっと両手で包む…よし、彼の顔を上目遣い…上目遣い……ね。
『教えて欲しいなあ~……休み、何日取れたのか、知りたいな~…』
「今日含む五日間!!!」
『うわ、うるっさ!移動型の公害かよ、耳元で叫ぶなし!』
五日かー……まあ、この忙しい呪術師の世界でそれはよく取れた!ってくらいなのかな…。ハニームーンの由来の一ヶ月ってのは取れることのない、幻レベルでしょ。