第35章 縛りの儀
『…なに?』
「それは生まれてくる赤ちゃんのヘアバンドにするのが良いんだってさ!元気に幸せに育ってくれるって、良い言い伝えがあるんだって。
……ハルカにとってのサプライズ、だろ?」
『それは嬉しいサプライズかもしれないけれどさ……、』
階段下で「後は高田ちゃんの心の準備次第だッ!」と叫ぶ東堂に呪術師も非術師もまだらな拍手をしている光景。それを見ながらに隣の悟へと『次からはこういうタイプのサプライズは事前に相談しろ~?』と言ったらこっちを向き、下唇をちょっと突き出して、それじゃサプライズにならねえじゃん!と即答されてしまった。
「……昨日の事も、もちろん今日の事も。死ぬまで絶対に忘れちゃ駄目だから。僕とオマエの幸せの象徴だ、この後の食事の場で一緒にケーキに入刀する瞬間も互いにケーキを食べさせ合うことも、それぞれのテーブルに火を灯しにいく事も、僕らからのメッセージ、そしてみんなからのメッセージや、記念写真の時も、僕らを祝う皆を送り出す時だって…。
僕がハルカを幸せにするって証明を、一生忘れないで」
にこ、と優しく笑ってさっきまで変なことばかり言ってたのに急に普通の人みたいなマトモなことを言ってくる彼。
……そんな事言われたらもう、既に幸せじゃん。
ぽろ、と溢れた涙を見て笑う悟に瞬いて、潤んだ世界が一瞬にクリアーな視界になった私は悟を見上げたまま笑った。
『それじゃ、私だって同じじゃん。昨日の事も今日の事も、私は覚えているから悟も忘れないで。
一生、悟が私以外の人に心動かさないで、それでいてあなたが一緒に居て幸せになるんだって証明をね?』
……鳩に豆鉄砲、って顔した悟。
視線が泳ぎ、口元を片手で隠して視線を下に落とした後ににっこりと何か企んでそうな笑み。ああ、まずいと思った瞬間、時既に遅し。
がしっ!と私の両腕を挟む彼の手。
逃げる、という思考が纏まらないうちに素早く顔が近付き、仰け反るも虚しく誓いの場のように公然…しかもよく見える階段上で重ねられた唇。
誓いのキスはとっくに終わってるって言うのに、さっきと同じ強烈なキスをされ、背をばんばん叩いて離せと叩いて訴える私を、「公然で欲情してんじゃないわよ!」という歌姫の悟へのチョップで助けられ、賑やかさはそのままに教会から会場へと結婚式は場所を移して進行していった。