第35章 縛りの儀
すう、と悟は息を吸い込む。何かやらかす前兆だと固唾を飲んで警戒していたら。
「全軍、突撃!王の軍勢なり(アイオニオン・ヘタイロイ)~!」
『うわっ!?』
彼はあろうことか、皆の前で椅子に座る私のドレス…スカートの中に頭をずぼっ!と突っ込んで、ドレスの中で頭をもぞもぞとしてる。公然わいせつ罪…っ!ぶわっ、と一気に熱が顔に集まる感覚。
きゃああっ、という悲鳴だとかに近い女性陣の声とおー、という男性陣の声が聴こえるけれどちょっと今はそっち向きたくない……っ。
これには流石にサプライズによる喜びや驚きよりも恥ずかしさが勝り、彼の膝に置いてた脚を引っ込め、ドレスにツッコんできた悟の頬をげしげしと押してドレスから離させる。足の裏から伝わる頬の柔らかい感覚よ…。
近付けまいと左脚が公然に曝け出されつつもしつこくしがみつく悟は、嫌がる私にスイッチが入ったのか、ムキになって再びドレス内に戻ろうとしている。ドレスのスカート内に入ろうとする新郎と聖域に入らせないようにする新婦っていう、トンデモ絵面になってしまっている。
カシャァ…カシャカシャカシャァ…というシャッター音が聴こえた。
……そこ、下の方!カシャカシャ撮るなっ!これは見世物じゃねえんだ!!
『ちょっと!何やってんの、馬鹿悟!変態っ!』
「何するの、もー!ガータートスするために狩りをするんだよ、この脚止めて、ガーターベルトが取れない!この攻防戦を盛り上げるBGMは用意してないんだけどっ!」
『手で取れや手で!いや、違う、私自身で取るからっ!顔突っ込む意味分かんない!BGMとか要らねえだろ、なに盛り上げようとしてんだっ!』
「それじゃ意味ないのっ!ヨーロッパでは取り入れて盛り上がるイベントなの、その流れに沿うと新郎の口で取るのが一般的なんだよ、マウスキャッチ・ガーターベルトなのっ!
この攻防戦にBGMを付けるなら確実にスタン・ハンセンの入場曲、サンライズだね!……ハハッ↑」
『ハートキャッチ・プリキュアみたいなノリで言うな!そしてこれをプロレスにすな!』
ぎぎぎっ、と互いに押し合い拮抗する力の中で彼を押さえつけるもひょい、とフェイントをかます悟。頬からズレてすかした私の片脚を悟はタキシードの脇に抱え、最初のようにズボッ!とドレス内部に頭というか上半身を突っ込んだ。