第35章 縛りの儀
高みの見物をしていた悟。石畳の上をコツコツを靴を鳴らし私の側から離れていくその背。教会のドア横に背もたれに生花やリボンで飾り付けられているアンティーク調の一脚の椅子が寄せられている。
彼はその椅子を手に、こちらに近付いて私の側にコン!と置いた。
向きは階段下が見えるように、ではなく下から見ると横向きになるっていうか。それに悟は笑みを浮かべながら「さあ、どうぞお座り下さい、プリンセス?」と丁寧な動作でわざとらしく、キザったらしくそう言って、私を椅子へ座るようにと誘ってる。
……どこかの祭りでは新郎を雪へと投げるとかあるけれど。椅子に座った後にそういう、私をブーケトスするんじゃないだろうな?と不安と疑惑の視線をその何かを企てる、青い瞳に向けて、ゆっくりと座った。
『……先に言っとくけど横ワッショイは止めてよ?』
「ははっ…!僕はンな事しないっての!
キミは猿野天国じゃないんだしせっかく手に入れた大事な花嫁は投げませんって!
……さあ、お待ちかねだよ、非モテの男性諸君~!イエーイ、見てる~??僕達のラブラブっぷりに目が潰れてな~い?」
はしゃぎながら叫ぶ悟。これは彼の言い方が悪かった。叫んだ途端に男性陣からのブーイングが殺到してた。
リアル炎上を初めて肉眼で見て、こういう性格面が神に与えられなかった部分だよなあ、と隣の満面の笑みに苦笑いが出た。
「そんな言い方ないっスよ!」
「クソ」
「俺だって街を歩けば人気者なんだぞ、上野のイメージ動物舐めんな!」
「おかか、おかか!」
一部階段を上がりそうな人が取り押さえられる中(乱闘的な意味で)、そんな様子を見て絶景を展望台から見下ろすように片手を額に当てて笑っている悟。そうやって煽るのも程々にしてほしいんですが……。
「わー、アリーナ席盛り上がってるねっ!」
『ライブ会場じゃねえんだわ、ここ……』
わあっ、という女性特有の高音の歓声。そして拍手が起こった。ブーケトスの選ばれたその一人が決まったみたい。
女性陣の騒動が収まり、決着が付いたのか歌姫がブーケを天高く突き上げている。それを眺める悟は肩を揺らして歌姫を指差し、ははっ!と笑った。
「ラオウの最期かよ、マジウケるんですけど~」
「誰が、我が生涯に一片の悔い無し、だよっ!?
ハルカ、アンタのバトンは受け取ったわよっ!今年こそイイ人捕まえてやるわっ!」