第35章 縛りの儀
『あの、かるーくね、ちょっと触れるくらいのかるーいヤツね…?常識の範疇の誓いのキスってか、触れてすぐ離れるヤツね…?』
この表情の彼に通用するかダメ元で頼むも、目の前の彼はふるふると首を横に振った後、首を傾けて笑顔を見せた。この時点で諦めムードですよぉ……。
「僕が誓いの場でハルカに対して軽いキスをするワケないじゃん!こういうのはとびっきりゲロ甘いヤツにしなきゃねっ!例えるならば、ドレインキッス!」
瞬時に感じる嫌な予感。化粧すら突き抜けるくらいに青ざめそうな、血の気の引く感覚…。
『それ、ヤだーっ!』
「はーい、駄目です、拒否権はありま、せん!」
せめてもの抵抗で逃れようと仰け反った瞬間に彼によるホールド。
ただのキスではない、ディープなものを私が転びそうなくらいに仰け反った所に追い詰めるように口付ける。履いていた片足の靴(ヒール)がゴト、と床に落ちた音したんだけど。
それでもお構いなしに唾液を悟が吸い込むような、いや舌が口内で暴れまわるような人様に見せるようなものじゃないキス。
……未成年も居るのにこれ、良いの?おい、教師!変態教師っ!なにやってんの、恥ずかしいじゃん、馬鹿ァ~!
カシャカシャ音を立ててるシャッター。手で必死に悟の胸を押すも一切緩める事のない力に近くで呆れたような、乾いた笑い声をしてるミゲル。
立ちながらに覆い被さるようなキスに助けを求め、片手で空を掻くも、耳に入るのは笑い声や茶化す声。あと兄の「くぁwせdrftgyふじこ悟クーーーーン!!」というなんとも情けない、恥ずかしい声……。
僅かに角度が変えられた際に息を大きく吸い込んで叫んだ。
『…っ!~~~~~っ、はぁっ、誰か止めっ……~~~~っ!!?』
かぷ、と再び塞がれて、誓いのキスってなんだっけ?とただの独占欲の塊が見せびらかすキスを長々とされ、もうギブだから!と伝える為に背をバシバシ叩くも夢中になる悟は離さない。
近付く小走りの音。「悟、いい加減にしな」という傑の声が悟の背後から聴こえ、ゴッ、と歯が当たる衝撃で離される互いの唇…。
……最終的に傑による悟への一発で収まったキス。
前歯ガチィ言って結構痛かったけど、助かったのは事実。後でお礼言っとこ。
息を切らせ、少し乱れた髪とドレスの装飾。片足の靴をシンデレラのように履かせた悟と腕を組んで、私達は教会を後にした。