第35章 縛りの儀
流れは指輪の交換へと進んでいき、悟は私の手を取って指輪を嵌めようとしていた。
……いつになく真剣な顔付きだなあ、と伏せる白毛の長い睫毛を見て、彼の表情から私の手元を見る。
調子に乗ってる悟もこういう時って緊張をするんだ……、まあ、昨日の今日だからかもしれないけれど。
彼の指先は珍しく冷え、カタカタと小刻みに震えていた。
『(わぁ…悟もこういう事に緊張するんだ~……!なんか、)』
……すっごく新鮮、かも…。
じっと見ている中でぐ、と嵌め込まれる普段から嵌め込んでいた指輪。これこそが呪われているんじゃいかってくらいに、彼との思い出と愛情を強く込めた呪物。安心したのか、ふう、と自分の番が終わって息をついてる。
今度は私の番だ、と悟の手を取り、同じ様に嵌め込もうとするも私も悟と違わず緊張してて、カタカタと手が震えてる。
……夫婦して、同じ事してるじゃん、私達。
「……プッ」
『……笑うな、馬鹿!さっきの悟も同じことしてたじゃん!』
小さくそんなやり取りの中で私の方も、最悪の事態を防ぎつつ(震える指先で滑らせてリング落とすとか)しっかりと悟の指に嵌め込んだ指輪。
一難去ってまた一難、この流れは誓いのキスだけれどまあ…チュッてして終わりだから、人前とはいえそんなに恥ずかしくはないだろ。
……そんなにって言うか、本当は内心凄く恥ずかしいけれど今は恥ずかしくない、と自己暗示してやり遂げるしか無い。
キスなんて人前でそうはしないもんね…。
ひとり自己暗示をする中でミゲルはフン、と鼻で笑った。
「サッサト、誓イノキスヲシロ!」
『……パイレーツ・オブ・カリビアン式か??』
ミゲルの強制するような言い方に聞き返した所で悟を見れば、私の顔に掛かるヴェールを丁寧に剥がし、顔が良く見える状態になった所でご機嫌そうににっこにこに笑ってる。
あれだ、獣の耳や尻尾があれば尻尾を激しく振り回しているご機嫌な犬を彷彿とさせる、わくわくしてる表情だ、コレ。
フリスビーを飛ばす前、キラキラした瞳で待つような、六眼が目を離してくれない。
何かを察した私。これ、軽いキスで終わらなくない??大丈夫そ?
キスをする為にと私の腕を掴み引き寄せようとしてる新郎に、やや引き気味になりつつある新婦の図。もしくは、蝶野に制裁(ビンタ)をされまいと仰け反る邦正のような図に気が付けばなっていた。