第35章 縛りの儀
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隣で腕を組み、夜蛾学長に負けないくらい強面な私の父がまるでエシディシのように泣き散らす中……。
頭上のステンドグラスからの柔らかな光差し込み、照らされた真っ赤な絨毯の上をゆっくりと進む。
最初はレモンイエローのドレスであったウエディングドレスは、謎の男のナイフに刺された際に私の血で赤く染まってしまってこれでは式に出られない、とお色直し用に用意していた水色のものへ急遽着替えた。
……本当は真っ白なものが映えただろうけれどさ。それは前撮りでしっかりと撮ってある。今でも、またこれから先も白いドレスを来た時の一瞬を収めたふたりの思い出は忘れていない。
この場に母が居てくれたなら良かったなあ、なんて小さく父と話してさ。苦労を掛けた私の父と共に進む先、足を止めて待つ新郎…悟は微笑み、そこで私を待っていた。
ここに集まる誰もが、さっきあった事件を一時"無かった"事にしてる。どこか心の片隅に事件についてあったとしても私達と同じく今は今だと気持ちを切り替えていたから、私もこの式に緊張し、粗相が無いようにってひとつひとつの動作に気を付けて隣に立つ。
ヴェール沿いに見えるのは、私達の前の祭壇の側に居る牧師。
サングラスを掛けている所、随分とロックな牧師だなあ……、と思っていたら。悟と小声で話す、なんだか海外の暖かい地方で育ったような人。多分、皆には聞こえていないと思うけれど近いせいで私にははっきりとそのやり取りが聴こえてくる。
「五条、急遽呼バレタト思タラ、マサカ俺ニ牧師ヲヤレトカ……」
随分と片言だけれど、日本語の文法とかしっかりと理解してる外人さんみたいだな…。
悟はその目の前の牧師に小声で返していた。
「いいじゃん、ダチのダチはダチみたいなモンだろ。ここは牧師らしく振る舞っといてよ、ミゲルゥ~、そこのカンペ読んでくれれば良いからさあ…」
「牧師ラシク、ネエ……、セメテ緊急任務ニ呼ベ、任務ニ。俺モ牧師ヤル暇ナンテ、」
「ガタガタ言ってるとオマエのあれやこれやついでになかった事、傑にチクっちまうぞ~?」
傑との上下関係を察した。
悟の言葉に折れたのか小さくため息を吐く牧師。悟はミゲルって人のどんな弱みを握っているのやら……僅かに顎を引いたミゲル。とても小さな声で「仕方ガナイ…」と下を向き、空気を変えた。カンペと呼ばれた聖書を持ちキリッ、と表情をキメている。