第35章 縛りの儀
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もやもやを抱えたままだと心から楽しむことも祝うことも出来ない。ただの悩みじゃなくて、私を殺そうとした男が居た、という事なんて死にかけた後に笑顔で結婚式とか普通、やってられる?
けれども四月から延長してこの六月に一生モノの式を実践したんだから、部外者の侵入を許し死にかけたから中止、だとかまた延期って事に出来る……?
きっと、これはこれから先に同じ式なんてない。悟と共に僅かな時間で真剣に悩んで、少し開始時間を遅らせる事になったけれど、式は予定通り続行する事になった。
よって、今だけはさっきのことは無かった事にしよう。お互いにそう了承し、またあの場に駆けつけた呪術師達にも口頭なり、携帯でのメッセージなりで伝えられた。会場で一言でも「新婦がさっき殺されかけた」とか口走ったら何も知らない非術師である親族・友人になぜそうなってしまったのか、と式どころではなくなる。非術師には不審者の対処だとかそういうので今は待機と伝えられてるんだけど…。
そういう事で、不審者による肩への攻撃でレモンイエローのドレスはお披露目前におじゃんとなり、お色直し用の水色のドレスを着直す時間を貰った。その為の開始時間を延ばしたようなものだけど、不安や恐怖に冒された精神もリセット出来るいい機会と言いますか……。
今度は心配だからと私と同じ控室でずっと側に居る悟。
話が長くなるかもしれないけれど、先程死を感じた事件についてをいち早く彼に話しておく。始まりから事が収まるその時までを…。
──それは食い違った話が上手く噛み合ってしまったという事。
相手は私を殺す為に連れ出そうとしていた。それを私は悟のサプライズの一種かと思って聞いたら、そうだと返されて安心してしまったという事。
車に乗る頃には流石におかしいって思ったけれどさ…?
椅子に座り項垂れながら、はー…、と大きなため息を吐いてる。呆れたような乾いた笑い声、顔を上げた悟は口元を歪めてる。
「ほんっと…オマエ、そういう所だかんな?」
『そういう所ってどういう…?』
「相手にとって都合の良いトラブルを引き当てるって事!トラブル確定ガチャかよ、もはや天与呪縛なんじゃね?
もー…、僕の見てないうちにホイホイとトラブル持ってこないでくださいますぅ~?」
『お言葉ですがこちとらトラブル起こしたくてトラブルメーカーしてるんじゃないんですけど~』