第35章 縛りの儀
ドアを開けたまま、通路と控室の境界線で立ち止まる彼を見て『あー…』と私はひとり、うんうん頷く。彼は分からないのか、頭にはてなを浮かべているような、きょとんとした顔付きだった。
……この人少し幼い顔付きかも。新卒とかでまだこの仕事に慣れない感じで、サプライズを如何にバレないように出来るかって隠せないのかも、なのかしら…?
『……もしかして、"あれ"かな?』
きょとんとした彼にドヤ顔で人差し指を上に立てて私は聞く。というか、ヒントを与えてみる。
『ほら、結婚式っていったら。サプ的でライズ的な……?』
「………!はい、そう、サプでライズな"あれ"です!」
『そっかそっか!』
言い切るように、ちょっと投げやりにも見える彼の元に私は化粧台の前の椅子から立ち上がった。バレてないって事で話を進めるから着いていくかあ。
そのまま私を呼ぶスタッフの元へ。彼はドアを大きく開けて「こちらです」と慣れないドレスの私を誘導をする。
……悟め、一体どんなサプをライズするつもりなんだ…?とドレスを掴み、急ぐスタッフの後ろをついていく。
彼は相当急ぎだったのか、振り返って一度止まり私の手袋越しに手首を掴んで引く。
「こちらへ!」
『はいっ!』
絨毯の敷かれた通路を走る私達の靴音は大きく響くことはないけれど、それでも小さくコッコッコ、と走る私達二人分の音はした。
皆、会場に着席してるはず。誰も通路に居なくて、なんだか急ぎで連れて行かれるのは何のためなのかはまだ私には見えない。
何も分からないまま連れて行かれ、向かうべき場所は教会側のドアかと思ったけれども、全然違う通路を曲がり、どうやら外への裏口へと連れてこられたみたいだった。
『あの、どこに向かってるんですか?』
……しかも教会とは正反対では。
スタッフは急ぎながらも私を時折振り返りながら、息を切らせて説明する。
「それは特別な場所です!」
『特別、って…』
外には車が。高級車とか、高専でお馴染みの車とは違う車だけれど、その後部座席のドアを開けた男は「早く!」と急かす。
随分とせっかちだなあ。もう少し前から行動していればこんなに急ぐことも無かったんじゃないのかな。悟の考える事だ、遅刻魔には遅刻するような計画なんだろ…と呆れているうちに、運転席に乗り込む男。エンジンを掛け、シートベルトもせずに焦ったようにギアを切り替えてる。