第35章 縛りの儀
『嫌々そうではあったけど悟をここに運ぶの手伝ってくれたよ~。最初は肩を貸してくれてたけどさ、悟が私にしがみついて、野郎よりも奥さんの方がイイ!って大声でゴネて……泣き叫びながら私の首にしがみつくから、私は上半身を…直哉さんが悟の脚持ってここまで運んだの。
だから後でちゃーんとお礼、言っておきなよ~?』
蓮根を箸で摘むハルカはそれを口元に運んできてついそのまま口に入れて受け入れちゃった。しゃくしゃく……やだ、もー僕の馬鹿!雛が口を開けるのは親鳥から餌頂戴!みたいな合図でしょ、それをここでやってどうすんの。お腹すいてたし美味しいけどさ、このままだとエンドレスで食べさせられるっての!
話をする為にハルカの手を片手で優しく包む。そうすれば僕に食べさせようとする彼女の手は止められた。
彼女は弁当箱から僕へと視線を上げる。その視線から離さないように、まっすぐと僕らは見つめ合った。
「嫌なこと言われたり、変にいやらしく触られたりしなかった!?」
『大丈夫だって』
「ってそれよりも式の方が大事だった!大事な式、僕のせいで台無しになっちゃってごめん!」
『それも大丈夫だよ?』
にこ、と笑う彼女はお弁当を見て、少し迷った後にさっき僕が食べてた卵焼きを箸で割り、自分で食べてる。
僕の見ている中で飲みこみ終えた後に、歯を見せてにこっ!と無邪気に笑った。
『お硬い式だもん、高専内の知り合いがちょーっと居てもさあ…私の肉親も友人も、皆集まる楽しい結婚式は明日でしょ?だから、私にとっては明日が大切な式。
だから、明日こそは絶対にやらかさないでよ~?お酒、禁止』
彼女の言葉は本音か、それとも僕に対する優しさか。どっちにしろ愛想を尽かされなくて良かったってホッとして、僕は彼女の箸を持つ手に手を伸ばす。