第35章 縛りの儀
『一時間くらい前にお開きになったよ。
で、女将さんに許可貰って悟が起きるまでこの部屋を貸してもらったの』
松竹梅トリオは会場内の片付けをしてるー、とハルカは伸びをした。コキ、と関節が鳴って伸びを止め、首を回して…。
この子はずっと同じ体勢で、僕が起きるまで待っていてくれていたんだ……。
着慣れない服装。凝ったんだろうね、肩を自身で揉んでる。
『悟が皆の前で堂々とお酒飲む姿を見せてたから、お酌しにくるのかハラハラしちゃったけど。明らかに酔って私の膝で寝ちゃったし…、そんな風に寝てる悟にお酌をしには誰も来なかったよ』
「そ、そうなんだ…」
『ただ、写真攻撃はめちゃくちゃされたけどねー。真希さん達とか悟のお母さんとか!側にやってきてもあまり嫌なことを言う人も居なかったし、起きてる状態の悟が今回、余計なことを言わなかったってのもあるかもね?』
「おやおや?それはどういう意味かなー、んー?」
わざと首を傾げて彼女を見れば、ハルカは視線を反らしながら『話変わるけど』といそいそとなにか風呂敷に包まれたものを持ち上げ、とさ、とそれを僕の近くに置く。
なんだろ?と四角いそれを見ればハルカは目の前で箱らしき何かを包む風呂敷をシュル…、と開けた。
『お腹すいてるー?悟、すぐ寝ちゃったからご飯食べられてないでしょ?せっかくいい料亭なんだもん、私も膝枕の最中ずーっと待て状態だったしさ、いい加減お腹空いたよー。
で、見て見てっ!ここの女将さんが詰められるものはお弁当にしてくれたよ!ほら!』
「はは……、」
嬉しそうなキラキラとした瞳の彼女。食欲全開でいつも通りなハルカを見て、僕は少し安心した。機嫌を直せないくらいに激おこになるとか、大事な時にやらかした僕に幻滅したんじゃないかって…愛想を尽かすんじゃないかと思っていたから。
記憶の片隅に確かに見覚えのある料理。
手を付けてなかった料理がいくつかあるな…という弁当の中身。その弁当箱がふたつ、ハルカにより畳の上に並べられる。
パキッ、と割り箸を割り、ハルカはふんす、と気合を入れていた。なんでそんなににこにこしてんのかな?