第35章 縛りの儀
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……暖かくて優しい触れ方。何度も撫でる手に小さい子供みたいに狸寝入りして起きたくない!って気持ちが強くなる……けどさ、僕の体の下、畳なのかな?硬いし早く起きないとこの優しい子の身体に響いちゃうよね。
僕はいつの間にか眠ってたのか~……、と瞼を僅かに開ければ頬を下に、枕にしていただろう、大好きな人の太もも。香を染み込ませた黒字に綺羅びやかな刺繍が見えて瞬く。
この慈愛に満ちた触れ方とうっとりするような体温には誰もが眠くなってしまうよね、それは僕だけじゃなくまだ生まれない息子だってそう。
……いや、お腹の中でまだ生まれてないからって、実際今は起きてるのかもしれないけれどさ?
この優しさの主を思い浮かべながら再び目を瞑ろうとして夢うつつの中。制服でも部屋着でもなく"和装"って事で一気に覚醒する。寝惚けてる場合じゃないでしょっ、これ……っ!
「……っ、そうだ、式っ!結婚式中だった…!」
がばっ、と起き上がれば僕も着替えぬままの式で着ていた姿。そして起き上がって振り返った彼女は『おはよう』と微笑んで言った。
確か…ええと、ここはハルカの控室だったはずじゃあ……。
「誰も、居なくね?もしかして、僕が寝てる間に……、」
なんだっけ……。
お酒を飲んで、酔って眠くなって、賑やかな会場でどんちゃん騒ぎが始まってて……。
お酒の効果かな?温まった体で眠さはMAX。ハルカの側でちょっと体を預けたつもりだったんだけど。
一通りの式の流れは終わったとは思う……頭ふわふわしてうろ覚えだけど、挨拶をしたはずだ。でもその後、食事の中で親戚だとか呪術師の僕らに対する絡みがあったか、なんて上層部からぜーったい来るであろう絡みを全く覚えてないのはおかしい。
つまりは僕、爆睡してたって事じゃん?
──…やっちまった。
一生モノだろうって結婚式だっていうのにかっこつけてお酒を飲み干して、みっともなく御三家・上層部の前で酔って寝た、とか。当主としての威厳以前の問題だろ…。
血の気が引いていく中で申し訳ないなって彼女を見れば、ハルカは落ち着いて僕の足元の座布団を引き寄せている。