第35章 縛りの儀
歓談が始まった……。
まず、会場内の集められた呪術師達は食事に手を付け始め、皆わいわいと賑やかに会話を楽しんでる。こうなってしまうとどこの家だろうと祝いの場…、壁が無くなったみたいにどの家の人間もにこにこしてる。それは表面上、仮面みたいな社交辞令の為かもしれないけれど。
ギスギスしてるかと思ったけれどこういう場では一応は楽しむんだなー……、と会場全体を見渡す。イメージ通り御三家とかギスっててしん、としたお通夜だったらどうしようって不安の壁が崩れたのは良いけどさ?
……まっ、ここから見ても一番騒いでるのは禪院家当主周辺なんですけどねっ!
五条家の並びに居るお義母さん。目が合った時に腰をやや落としながら静かにこちらへとやってきた。そして耳打ちをするように私や悟に聴こえるように不安を口にしてる。
「うちの子お酒駄目なんだけど…大丈夫かしら?」
「順調快調絶好調!」
『……いつも通り駄目ですね、ハイ』
「そう、よね……どうしましょう…」
小さくため息を吐けばそのタイミングがお義母さんと重なった。
これ以上酷くならないように、五条家当主の面子を保つ為に…。飲まされお酒で彼が潰されないようにしなくちゃいけない。
今でも普段のシラフで酔ったテンションを僅かに上回るテンション。こんな状態の彼に絡まれるのはぶっちゃけ面倒くさい。
『……とりあえず、これ以上酷くならないように悟への燃料の投下を防ぐ様努力します』
「燃料…?」
『アッ、お酒を飲まないようにさせます!』
敬礼!と背筋をピン、としてお義母さんに断言すれば、心配そうな顔で私達の側から去っていく。その背を見送り、酔いがかなり回ってきたらしい目がとろんとして顔を赤くした私の隣人を見る。
完全に結婚式でハメを外した旦那さんですね、これはよぉ…。
『飲んじゃったものはもう仕方ないとして。悟、これ以上お酒を飲まないように!』
「のんららどうなんの?」
『……既に駄目だこりゃ』
燃料追加とか以前に回りきったアルコール。悟のろれつが回ってないがな。
ぽわぽわした眠い子供みたいな彼がついにくあっ…、とあくびをした。飲むに飲めない状態でもある、限界が見えた瞬間というか。よくある飲み会の終わり頃、本能のように黙って部屋の住みに寝始める人のそれといいますか。
もう一度ふわあ、とあくびをし、涙を見せながら最後に悟はにかっ!と笑った。