第35章 縛りの儀
「ふふ……契りの場でさー……お祝いのお酒、残しちゃだめかな~って、えへへ…へへ」
『ぐっ……!で、でも、下戸なの自分で分かってるっしょ…悟~……』
自分の顔が整ってるって事を自覚してんのか、素なのか悟のはにかむ笑顔に自身の胸を抑えて、ドキドキするのを必死に耐えて……。
視線の先じゃ随分と自信ありげな表情。酔いが回り眠そうなゆっくりとした瞬きにむずむずとする庇護欲。必死にその気持ちが飛び出さないように注意をしながら『弱いなら飲むんじゃないのっ!』と小さく彼に今更言ってもどうしようもない文句を言えば鼻で笑われた。
「ふふん……、まあね。僕も下戸であることを忘れるほど馬鹿じゃないさ。僕からハルカに回す盃。オマエ、お酒好きだしこの機会に飲んじゃう可能性もあるし、お腹の子に少しでも負担がいかないように量も減らそうって思っててさー」
『無理、してんじゃん……あれ、口は付けても飲んだフリでも良いって言われたでしょー?』
明らかにふわふわした雰囲気の中で唇を一文字に結び、ふにゃあ…とだらしなく笑う悟。
ちょっとその笑顔が可愛いなんて思ってしまった。無性に撫で回したくなるからヤメロ。
「それ、聞いてなかったわっ!メンゴー!」
『そういう所ーっ!』
声高らかにそういって自身の頭をペン!と調子に乗った彼が叩く。その二の腕にツッコミを入れるは私。いや、漫才になってんだけど!そういうんじゃないからな、今日の式は!その為のレッドカーペットじゃないのっ!
ハッとして悟から周囲の知らない老人達を見渡す。
……てか、待って。
ぐいぐいと飲んでいた姿を皆に見られている、という事はだよ。この後、お酌をしにくるのでは。飲めるんだろ~って……そしたらこれ以上に悟は飲んで、飲んで…飲まれて飲んで……。
……酒に溺れるがな!!
頭を抱えたくなるような嫌な予感を感じる中、静まっていく室内。
場所を変えた後の手順通りに進められていく。悟の挨拶とかちょっとろれつが回っていないような気がしたけれど途中で倒れる事なく(ふらっふらだったけど)、最後まで話し終えた悟。変に手に汗握っててまるで授業参観の保護者の気分を先行体験してしまったわ…。
今の所はなんとか悟の五条家当主の面子は保たれている。問題は歓談の場になった頃。なんとかこれ以上悟が酔いつぶれないようにしないと……!