第35章 縛りの儀
340.
厳かな雰囲気の中で行われる、夫婦となるふたりの誓いの時。
以前は御三家会議に来ていなかった…(邪魔をされ参加させて貰えなかった、が正しい)今は三年生の双子の姉妹、真希や真依も今日は呼びかけに応じ参加している。もちろん、加茂や伏黒、明日の式には来ないけど今日だけ参加の楽巌寺学長も。
随分と態度の大きい、見たことも名前も知らない爺さん婆さん達が多く参加する中で、高専の知り合い達がその中に居るのは少しばかり気が落ち着く。だってここには私の肉親も古くからの友人も居ないのだし、悟と私、ふたりが主役となるこの式でただでさえ緊張するのに知らない人に祝われたなら、ひとり縮こまってしまいそうだったから……。
神楽が流れる。基本、私達は静かにして動作に注意して流れ通りに行事は進む。
中庭の小さな建物から皆食事を……というわけで料亭内へと移動が始まった。小さくても分霊済の神様の居る建物としては"儀式"だけにしか適していなかった。食事はこっち!とまあ、料亭らしく得意分野の建物へと上手く分けたみたいでさ。
移動しながらも悟の手をぎゅっと握ってハラハラしていた。それはこの式への緊張じゃなくて、私と繋ぐ手汗とぽかぽかとした体温になってしまった原因の"彼"が倒れてしまわないかって事。
──身誓盃の儀。
式の流れの中のひとつ。お供えしていたお神酒を大中小のみっつの大きさの立派な杯で交互に飲むのだけれど…。
小さく悟は囁いていた。それは私にだけ聞き取れるくらい、口元に片手を当てた言葉「唇が触れるだけにしな」って。
本来の私だったらがぶがぶ行けたロだし、この状況からしてそれが出来ないとしても少量なら大丈夫。唇に触れ、口内に入ったとしてもそれだけで酔うわけじゃない…またその程度でお腹の子になにかあるってわけじゃない。そりゃあ、何度もズキュズキュと喉を鳴らして飲んだら確実にヤバイけどさあ、流石に私もそれはしないもん。
それに彼自身は下戸、お酒が駄目なのは知ってる。お互いに今回のお酒を使った式は飲めず、演技程度に収めないといけないのだけれど、これに関しての相談を今回の式に呼んだ神社関係者の人に相談したら、「飲むふりで無理に飲まなくても良いですよ」と聞いていたし、そもそも悟は無理に飲まないだろうって思っていたんだけれど。
小さな杯から始まるその一連の習わしは最後の頃になって違和感を感じた。