第35章 縛りの儀
「梅、そこズレています、もう少し丁寧になさい」
「は、はぁい……」
長女である松は厳しいなあ…と見ていれば、背をバシバシ叩いて「猫背っ!」と私の姿勢の矯正に掛かる松。はい、背を伸ばしますから…!
早く式始まって座った状態で待機にならないかな……と三姉妹を横目に空いた障子の先を見る。見事に整えられた大きな庭。ここからは見えないけれど来る途中、確かに鳥居が見えたんだよね。昨日悟の言ってた鳥居。
「はい、綿帽子です、被せますのでよそ見しないで下さい!」
『ハイ…、』
さくさくと支度が進められていく中で、手順を頭の中で思い返す。ええと、巫女さん達に着いてって、案内されて……それで…。
指折り手順をイメージトレーニングしていればドタドタというこちらに近付いて来る足音。その物音を立てる人物が誰なんて私には分かりきってた。
障子に和装の人影が見え、直ぐに庭を背景に見える人物は白銀の髪の人。やってきたのは想像通り悟だった。
彼は着替え終えて紋付き羽織袴の姿で私の仮の控室にやってきたんだ。そんな立派な悟の姿を見ると、普段ふざけまくってる彼も当主であり、そして私の旦那さんって事を自覚させて、どきどきと胸の鼓動が大きくなる。
悟の青い瞳が大きく開け放たれている。棒立ちからのゆっくりと開く唇。
「ハルカ……、」
『…ん?悟、』
目が合った瞬間に畳に両膝から崩れ落ち、ドシャア、とヤムチャの如く畳に伏せる悟。足元に気を付けながら倒れた悟の顔の近くでしゃがんだ。
うっすら開いた瞳が私を見上げてた。
「マジで白無垢じゃーん……ウケ、る…」
『おい、死ぬな~?』
頬をぺしぺしと指先で叩く。やけに幸せそうな死に方やんけ。その微笑みながら伏せた白い睫毛、表情全体でわが人生に悔いなし、と言いそうな良い人生を送った死者のような……って死んだフリにしては大げさなんですが?
何度か起きろ、と頬を叩くとゆっくりと身を起こす悟。だらしなく顔がとろけたみたいに笑顔を見せた。