第34章 その男の名は……。
クス、と笑いながら「白黒つけに行こうぜ?」とふざけた悟が耳元で笑っている時だった。
──ぞくり、とした背筋。
……まただ、誰かに見られているような。人が多い街中で繋いだ悟の手をぎゅっと掴んで進めるはボウリング場への道。
歩きながら不思議そうな表情をした悟は心配げに私に声を掛ける。
「ハルカ、どったの?」
『……いや、なんでも無いよ?悟に恥ずかしい事言わされるなら絶対に勝ってやろうって武者震いしたくらいさっ!』
……よく考えればさ。彼の性格を知らず見た目だけでかっこいいって惚れた女の子が、悟の隣に居る私を見て苛立ってるって事だってある。そういう視線を今までに何度も受けてるし、付け回す程の恨みだとかそういうのじゃないかって考えすぎかもしれないよね。
そんな事を相談しても解決策なんて彼が顔を隠すこと……、アイマスクをする程度。
ただのすれ違いでの隣の女に対する思いなんて、長く引きずるものじゃない。その時だけなんだ。
私が悟の恥ずかしい言いなりにならないように勝つ!に自信を持つ悟はウインクしながら指をパチン、と鳴らして私を指差した。
「今更恥ずかしくないでしょ~、キミと僕はラブラブ夫婦だもん、恥ずかしさなんてYou、野良犬にでも食わしときな!」
『悟の案は砂糖じゃなくてラグドゥネームレベル、甘ったるすぎて野良犬も吐くわっ!』
一緒に並んで肘でつつき合いながらボーリング一筋の店舗へと歩き出す。
最近、嫌な視線を感じる、その視線についてを悟に相談するのを後回しにして、また忘れて。
着いたボウリング場。ほんのりと汗ばむ運動をして(チェリオは売り切れてたみたい)、悟と共にエステを受ける指定された店舗へと立ち寄った。そうしていけばまた一日が過ぎ去って、心配事っていうのは些細なことじゃなくて迫りくる結婚式の事でいっぱいいっぱいになる。
──そして私達は五条家の当主として披露する式、当日を迎える事となる。