第34章 その男の名は……。
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病院の出入り口のガラスのドアを出て、「はい」と差し出された悟の手に重ねた手。ぎゅっとしっかり握られた彼の手は少し汗ばんでた。
少しだらしなくも見えるデレデレとした悟の笑顔。そりゃあ、呪力の流れなどで見るよりも映像として見た方がはっきりと映るからかな。23週目の通院となる今回、ちょうど腕をもぞもぞと動かしているシーンを一緒に見てから特に悟はご満悦だ。
「僕らの子供、すっげえ元気そうだったねー!」
『ん…、順調で何よりだねー』
激しくない程度にきちんと運動してね!と先生に推された。他、注意点としては見た時に首にへその緒が巻きついてたけれども、よくある事らしく自然と抜けますよ、との事。
悟は「首絞めじゃん!」とハラハラしていたけれど、もう一度担当医に「よくある事ですんでっ」と暴れ馬を落ち着かされるように悟に二度ゆっくりとした口調で説明していた。
ぎゅっと絡まる指。「ハルカ、」と呼ばれて私は優しい微笑みを向けてる彼を見上げた。
「運動っていってもねえ~……オマエ、ご飯食っては最近ごろごろしてるもんねえ……?」
『ん?牛みたいに扱ってない??……あのね、結構立ってるのも今までよりもしんどいんだよ、こう、胸を張るように、っていうかさ!』
学校なり仕事なり休みの時はひとりの時ってだらだらしたい方だけどさ。
体重が増え始め、その重心は体全体ではなく腹部。前方に少しずつ重みがますと重心は今までと違い、まっすぐ立っていた視線も変わっていく。すると疲れも痛みも出てくんの!
ジェスチャーで胸を片手でとん、と触れていると悟の視線は胸元から下へと下がっていく。
「……重心的な感じかなあ、赤ちゃんが大きくなってるその分前方に体重が移動するから…」
じっと私のお腹を見て、悟は心配そうに目を覗かせてる。
『んー…多分ね。けど、専門家の言うことは正しいんだろうね。マンション内なら筋トレ器具あったし、高専なら高専の敷地内を散歩するよ。任務と違うから危険もないし、激しくない運動だしね』
四月から事務多めってのもあったし、任務とは無縁になりかけてる私。外での実戦とか楽しかったんだけれどな。今じゃ危険で無理なこった。
安全に体を動かす案を上げていると悟は口元に笑窪を作る。