第34章 その男の名は……。
口元が微笑んでる悟。そっと私のお腹に触れ、さらりと撫で、そのまま大きな手を触れ続けていた。
「お腹の中でゆっくり育って、来るべき時に産まれてきて欲しいね……、」
『……ん。早く逢いたくても身体をしっかりと健やかであるように育ってから、だねー』
とんとん、とあやすように指先で叩き手を当てて、きっとアイマスクの下では愛おしそうに眺めているんだろう、目元。
「そうだね……。
最近ね、気付いたんだけど薄っすらと僕の目にはお腹の子がどういう格好をしてるかって見えんのよ」
視線は腹部に向いたままの悟を私はじっと見た。
そのどういう格好してるか、が"視える"という事は、この世界で彼だけが持っている眼のおかげなんだろうね。
『六眼でって事?呪力とか回路が見えるって事?』
頷く彼は唇に弧を描き顔を伏せ、お腹を見てから私を見上げてる。きっと、その黒い布の下は優しい目をしてるんだって見えなくても分かった。
「うん、まだ未熟だからねぇ……けど、非術師ではこうも映らない。この子は将来呪術師となる子だ。
六眼持ちってのは僕が存在するからしばらくは生まれる事がないけれど、眼だけじゃない、無下限呪術って相伝するものがある。
まっ、それをきちんと扱えるかはこの子自身が持ってる才能にも左右されるとは思うけどさ、この小さな命は五条家の長男…大きくなったら当主になる可能性があるよ」
──そっか。
その悟の言葉を聞けば嬉しさが込み上げる。つまりは五条家の跡継ぎとなる存在が今、私のお腹に存在しているのだから。
『……それは良かった!』
「うん!」
一緒になって喜んだ瞬間に、ようやく悟にもその時が伝わる時が来た。
お互いに大きな声を出したから?彼がノックをするようにとんとん、と優しく叩いたから?もぞ、と内臓が動くような感覚を起こすお腹の中。息を飲む悟は口を開けその場所を見て、私へと顔を上げ両肩を掴まれた。
「い、今ちょっとだけどもぞって動いた……よね?」
『……うん、動いたねー…悟も感じた?』
どうなんだろう、外から触れて分かるものなのかな?彼の感想を聞くにゆっくりと首を振って「感じはしなかった、いや分かんなかったけど…」と言葉は途切れて。
「……でもね、動く瞬間を目で見ることは出来た。すっごく、元気だ…!こんなに小さいのに……っ!」