第34章 その男の名は……。
特に禁止される事でもないし、まず私が医務室優先って事もあり。新田は私に大げさにも敬礼をして「伊地知さんに伝えとくッス!」と許可してくれて…。
私は新田に伝言を任せる事にした。
特に緊急の電話もないし。別に私は医師免許とか持ってる訳じゃないけれど医務室に向かうのだから白衣をもたもたと纏って。パソコンや書類の入った鞄を持ち事務室から医務室へと歩いていく。
別に今は緊急の呼び出しがされているわけじゃない。急ぎじゃないけど少しだけ歩く速度を上げて進みながらに携帯を取り出して待受を見た。
壁紙に設定してる悟の画像。私の意思で悟の画像を壁紙にしてるわけじゃないんだよね…。
私が壁紙をお寿司にしたり、動物にしたり、好きな俳優の壁紙に設定しても私の携帯をかっ攫った、悟によって彼自身の写真にすり替えられてしまう。
私自身で撮ったドレスコード時の姿とか、前撮り時のタキシードだとか。私自身でそういう悟の写真にすればあまり差し替えられる事はないから、多分猫とか犬みたいな「こっちを見ろ」と自身を常に意識させたいのかもね。
その悟の自信たっぷりのキメ顔を見ながらにきっと今、硝子が悟に連絡してるんだろうな、と想像してから携帯をしまい直す。硝子が彼に伝えたのなら私の勘がビビッと反応してる。
なかなか怪我をしない彼が医務室にやってくるヨカーン。
トットット、と自分の足元の小さな靴音だけが響く通路。
木造故に隙間もあり、湿った空気が室内にも流れ込んでる。木造の高専、通路沿いの窓の外。見上げれば青空を覆い隠されて今にも雨が振りそうな天気……。
通路を進んだ先でドア前で足を止める。電話越しでは慌ただしかった、医務室か自室かで荷物を纏めていたであろう硝子。医務室ドア前から耳に入る音は無音、中からは物音がしない。
それでも室内の電気が着いてるのは消し忘れというよりも私がすぐ来るという事を知ってるからなのか、身長190センチくらいの誰かさんが既に室内で待っているからか。
一応、怪我人……先に治療すべき人が待っていた場合も想定してコンコン、とノックをした。すると中から声がする。
「はぁい♪(裏声)」
『あ、頭の怪我人が来てたか』
ガラ、と遠慮なく開ければデスク前に脚を組みながらに頬杖ついて待ちぼうけする悟。連絡受けてここに来るの早すぎでは。
暇だったのかなあ……、今日任務行ってると思ってたんだけど。