第34章 その男の名は……。
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マンションの部屋でソファーに並んで座り、むしろ彼に引き寄せられてソファーよりも悟に体を凭れながらにまっすぐとテレビ画面を見ていた時。
ふたりとも画面に集中してコントローラーを手に握り、お互いを貶めようとタイミングを待つ中で、悟の携帯の着信通知が鳴った。
何度かブルブル震えてソファー越しに響き、携帯を手に持った彼は難しい顔をして拒否をしていた。でも携帯を投げない、また掛かってくるからって悟も分かってるんだ。
……いつからだっけ。ここの所毎日携帯の謎の着信に振り回されてる、そんな彼の姿を見ているのだけれど。
この始まりを覚えちゃいない。任務を断りきれない件とかかな…とも思う時もあったけれど。スパッ!と断る事が出来る人だから任務じゃないとは思う……。
もしや変なサイトにでも引っかかったのかな、とか思ったり。ここ連日、着信があって随分と相手に粘着されてるみたいだ。
難しい顔の悟はいつも見せる優しい表情に戻り、コントローラーを持つ。携帯は悟の脚の側のソファー上に置いてあるのを見た。
「で、NPCのターンは終わって僕の番ねー」
画面上にはワルイージ。悟の操作キャラがワルイージ。
そして私の操作キャラがキャサリンっていうね。
「てか主役がモブ側のキャラってどうなのよ?」
『いや私に振られてもさ?悟、目立ちたがり屋なんだしマリオ辺り選べば良かったじゃん』
文句言うなら始めからそうしとけ、と私もコントローラーを持ちながらに見上げる事無く。ぴっとり張り付く悟に向けて言った。マリオが嫌ならヨッシーとかも居るよ?人気だよ?
頭上からの触れた喉や顎から彼の声の振動が伝わる。「えー?」っていう。
「僕そんな髭生やしてないもん」
『ワルイージも生えてるだろ』
「あっホントだ!
……いやさ?サブキャラがメインキャラをひっくり返していく下剋上を叩きつけたっていいじゃない?燃えるじゃん、脇役の快進撃ってさ?」
悟の操作するワルイージ。サイコロの目の数だけ進んで、そのマスでコインを巻き上げられてらあ。巻き上げられたコインはルイージの元へ。私の頭上で「チッ!」という本気の舌打ちを聞いた。