第34章 その男の名は……。
……三十二掌まできたのにさ?ん?なんかすっきりしないんですけど?
いや、私ドMじゃないけどさあ……これじゃ中途半端じゃんね?と謎のスキンシップ前…、途中までやってたことをロードしてやり直ししたみたいな顔の悟を見上げる。
『……どうしてそこで諦めんの?』
「えっ、なにキミ松岡修造でも降ろしてる?」
『ちげーよ?
四掌、八掌、十六掌、三十二掌っつったら六十四掌で終わりじゃない?八卦六十四掌でしょ?』
鼻でふう、とため息を吐き出す悟。私から歩道の信号機をまっすぐに見てる。
「んー、なんか飽きた。それよりラウンドワン行こうよ、ハルカ!お腹の子供の為にも運動しろって言ってたし軽くさー」
自由過ぎるでしょこの人……と、信号が変わったのを見て周囲が前方へと進んでいく。私も彼に引っ張られて止めていた足を一緒に進めていく。
寄り道をするといって、このまま車の存在、忘れちゃわないかな…。車で行くにも少しだけだというのなら、むしろ歩いての移動の方が良いのかもしれないね。
悟の提案に頷く。行こう、ちょっとだけ遊んで行きませう!
『よし、じゃあ行こうか。ちょっとだけだかんね?』
「ん!じゃあ行こう行こう!」
悟がもしも犬であったなら今の状態で全力で尻尾を振っていたでしょうね。それ(尻尾)が出来ない代わりに繋いだ手がぶんぶんと振られているけど。
ご機嫌な彼に手を引かれながら寄り道をしようと進む足。歩いている時にどこからか、ふと視線を感じたけれどその人混みの誰なのかは分からない。立ち止まった私の足を、繋いだ手の主に「道草食わないの!」と引っ張られ、結局どんな人が私達を見ていたのか確認が出来なかった。