第34章 その男の名は……。
「19週っていうと、19週って事なんだよね」
『……小泉節だねー、まあ、うん…もう五ヶ月目に入るくらいといいますか』
さっきの真剣な表情はとろけ、またご機嫌にふんふん、とリズミを取りながら前後にメトロノームのように振られてる繋がった手。
進む方向から私を見下ろす彼の視線。細めた瞳が薄いブラウンのサングラス越しに見える。
「だいたい折り返し地点。その子に会えるまでもう少しって事だろ?」
『……予定だと9月中頃だよ?何勘違いしてんの』
「……」
喜びの表情は驚いた顔へ。ぱしん、と片手で顔を隠し、しまった!とばかりに大げさに騒ぐ悟。どうした、突然の発作か?こういう人の多い所でその発作は止めていただきたい、せめて物陰でとかさあ……。
離れない繋いだ手。振り子みたいな手の繋ぎ方はぴたりと止まり落ち着いた。
「あらやだ悟君のうっかり!うっかりしちまっただ!トツキトオカの呪文に囚われてた!やーねー?」
お喋りなおばちゃんのように過度なボディタッチをする悟。肩をタン、タンと叩いてくる。
タン、タタンタン、タン、タン…。中国拳法の一種のように揃えた指先で突くように。繋いだ手も離れ両手でちょっかいを出す悟、こちらも対抗して手を出し拒絶しようにもフェイントを加えてタン、トトン…と突く悟。たまーにお腹をさり気なくひと撫でしていったり。
「四掌、八掌、十六掌…」
『ちょっとまって、叩きすぎでは!?』
ぺちぺちと痛くはない攻撃。この人ボディタッチからだんだんとノッてきて八卦六十四掌しようとしてるんですけど。なに、私のチャクラの供給を止めようとしてんの?いや、私忍びじゃねえんだけど?ナントカの里って付く世界観でやって欲しいわ。
しつこい悟を見上げれば手は繋いだままに体を離す、アルコール度数0のシラフの酔っぱらい。
「怒った?怒った?」
『……怒ってないよ?けどしつけえわ…』
また繰り返すんだろってオチが見え、横断歩道前で信号が変わるのを待つ。トン、タタン…と突く指先。私にも流石にストレスを感じ始め、隣の性格というネジが欠けた人が元気に「三十二掌!」ってきた所でピタリと途端に痛くない攻撃が止み、何かあったのかと不思議になって隣の彼を見る。
ただ手を繋いだままなのは変わらず何事もなかったような顔して一緒に信号待ちしてる悟。