第34章 その男の名は……。
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東京に戻って数日後。定期検診の日を迎え悟に付き添って貰い、何度も通った道を助手席から景色を長め、病院へと向かってる。
始めこそ月初めくらいを目安に通院するも悟に任務だとか私にも呼ばれる事とふたり用事が重なり、色々あって。予定をした通院日からズレていって……月初めに行っていたものが今じゃ月の中頃だけど京都への出張明けもあり、行くには丁度良いタイミングっていうか。
悟の車から降り、何度か通院することで少し慣れてきた産婦人科への訪問。
受付を済ませて、大きなお腹をした女性からやや不安そうな女性、子連れの夫婦など様々な人達に紛れて私達も長椅子に座って待つ。
「おおよそ今週くらいから19週目、だよね?」
『ん、そうそう』
スクリーニング検査が楽しみ、と待合室で誰よりもそわそわする悟。
隣のリアタイ勢、恥ずかしいのでダンシングフラワーばりに揺れ動かずもう少し落ち着きなさい。壁際のママの側に居る未就学児よりも落ち着かない男、私の横でまるでひとりチューチュートレインしてる。
「どれくらい大きくなってるのかな~?形がもっとはっきりしてるのかなっ?僕の子だもんね、お腹の中で無量空処の練習してたりしてっ」
『はいはい、お腹の中の子のように大きなお子様も静かにしてましょうね~』
……喋りまくってるから恥ずかしいわっ!
私が周り見て静かにしようぜ?人差し指を悟の口元に当てるとようやく閉じた唇。そこで待合室にオルゴールのBGMが支配した所でぺたぺたとシューズの音。少しふっくらして優しげな婦人科のスタッフがにこやかな表情で「五条さーん、」と呼んだ。
悟の唇を封じてた人差し指。その手首をがしっ、と掴み私の腰を支えながら立ち上がる悟。
「あ、ほら呼ばれたよっ!行くよハルカ!のんびりしてたら僕が先に検査受けるかんね!」
『わーってますって。こら、悟が先行こうとしてどうすんの!』
何も悟のお腹の中には居ないでしょうに…。
そわそわする彼は長身だけどもちょこまかと私の周りを歩き、最終的に隣に立って背を支える。その脚は早く先に行きたくて仕方ないのか、押す手はぐいぐい前へと進ませている。
……びっくりするくらいにお腹が大きいんじゃないのに今がコレじゃこの後どうなっていくのやら。まだ膨らんできたなーってくらいなんだよ?臨月くらいの人への対応じゃないの、というほどに過保護な彼。