第34章 その男の名は……。
きゅん、とする胸を抑える。
やっぱこの子を好きになって良かった。想定外なほどに彼女は僕を好きになっていて、僕もハルカを愛していたみたい。居ても立っても居られない、触れたい、触れたくて仕方がない。
ざぶ、と湯船の中で背を預けた木枠から離れ、ハルカの側へ歩み寄る。『ん?』と声を漏らし不思議そうな顔したハルカを僕はそのままに抱きしめた。
腕の中の、僕の胸の中に感じる彼女は柔らかくていい匂いで、抱きしめると落ち着いて……愛おしさ故に、暴走して強く強く抱きしめなんかしたら壊しそうにもなる壊れやすさだ。互いに素肌故、触れ合った所から一つの生命みたいに溶け合ってしまいそう。
「奇遇だね、僕も何もしなくてもただハルカと一緒に居るだけでも十分幸せだ」
『……うん、私も幸せ。こういう時間、取ってきてくれてありがとう』
彼女の背を撫でる。湯船から上の素肌が外気に触れ、ひんやりしてて体を冷やしてしまわないか心配。
ぎゅっと抱き寄せ、僕の肩に少し冷たい彼女の顎が触れる。頬には僕よりも冷たいサラサラした頬。
……今日はマジでだらだら過ごそ。
子供の名前をどうするかって話。たくさんの案を厳選して最終的に名前はこれ!って名付けられるようにしたかったし、結婚式の夫婦間の打ち合わせもしたかったんだけれどね……。
といっても式の打ち合わせ、ハルカに対してのちょっとしたサプライズがあるんだけど、もちろん内容については本人に言わない方が良いもんね?
ドレス姿での結婚式。きっと盛り上がるに違いないと、六月に期待して背を撫でまくったらなんか怪しまれてしまった。
あと二日。京都で頑張った後は三日目で東京に帰るんだ。何も呪術師は365日24時間ずっと戦い続けるわけじゃない。
とろけるくらいに甘い夫婦の時間。僕らはのんびりとした時間を学長公認で過ごさせてもらった。