第34章 その男の名は……。
「ん?なにが?目の前に超絶イケメン地位も名誉もマニィも持って将来が約束された旦那が居るって幸せが現実なんだって信じられない?」
『……あれ?これ悪夢かな、残念な羅列が聞こえたんですけど?私の旦那さんここまで残念な人だったっけ…そうだったかな、うん…信じたくねえ事に……夢ならばどれほどって歌いたくなるなあ…』
「んー、コレが現実ぅ!柑橘類の歌より今はドリフのテーマ歌おうぜ!
こちら、五条悟プロデュースの休日プランをなっております!夢じゃなくって正夢!現実ですよー!逆夢ではなく正夢!正宗じゃないよー」
明らかに引いた顔した彼女が鼻で笑った後にまた空を見上げてる。小さく『もういいや、聴こえなかった事にしよ…』という言葉がしっかりと僕の耳に届きましたがなにか?
青空には雲がゆっくりと流れてて、気が付けばハルカと同じく僕も見上げていた。
「……ハルカ、そろそろお風呂上がろうよ。のぼせるくらい入るのは身体に良くない」
温まってとろんとした瞳。ゆっくりと瞬く彼女は少しだけ驚いた表情をしてる。
『ん、そんなに入ってた?そっか、じゃああと少ししたら上がろっか』
ちゃぷ、と体を動かすとお湯の表面が波立ち、外気に触れる素肌にお湯が少し掛かる。丁度いい湯加減だからいくらでも入っていられるね~…。
彼女の肩にお湯を掬っては掛けてあげて、僕が掛けられて…。幸せのため息付いて、また空を見上げてさ。
『悟との時間、全然取れなくてさー……それが今みたいに真っ昼間から一緒に居られて、しかも温泉旅行だもん。私、悟の事こうして独り占めしちゃってるこの時間、すっごく贅沢だって思うよ。
本当はね、色々話をしたり、カードゲームだとか携帯機でのゲームとか、温泉旅館にある卓球だとか。旅館の外を散歩するのだとか。そういう事もしたいけれど、今こうして一緒に居るだけでも良いなって思えちゃうんだ』
見上げた空から、そんな事を言うハルカへと顔を向けると少しだけ照れながらも幸せそうに笑っていた彼女が僕を向いている。
きゅう、と胸の奥から溢れ出すくすぐったいこの想い。この子が愛おしくてたまらない。
僕の意思でハルカを僕のものにしようとして、見事僕色に染まったけれど。
「……ンンッ!」
『はは…、いつもの悟の発作だぁ…』
「はあ…、僕の事を良く理解してるよね、キミって……」