第34章 その男の名は……。
332.
もうすぐで二週間の滞在が終わる、という朝。
アラームが鳴って目を開ける。身体を使う疲れじゃなくて医務室での待機だから肉体面での疲れが溜まるわけじゃないけれどさあ……。いつ来るのかを待ったり、誰も居ない時に敷地内を歩いたりひとりで体を動かしたりしている。それだけで体が悲鳴を上げるわけじゃなく、ただ連勤で怪我人がいつ来るのかってずっと気を遣っていたから精神に釣られるように体も自然と疲れていた。
あー…体が重っ~…。
背後から緩く抱き寄せるように寝たままで頭上からはすぅすぅと定期的な寝息が聴こえる。
……悟はぐっすり寝てんなあ…、私よりも悟の方が疲れているっていうのは知ってるよ…。
いつも、お疲れ様、だね。
撫でようとした手。頭に触れないように髪の部分だけで彼を撫でて。
……もう少し寝かせてその間に朝の支度しとこ。あと少し、京都滞在を一緒に頑張ろうね。
そう思ってうるさいアラームで起こさない為にも彼を撫でた手でベッドサイドに伸ばした。
ぺたぺたと携帯の画面に触れた感覚。引き寄せてアラームをオフにしたところで胸下に回されていた片手がベッドから伸ばしていた私の手を掴んで引っ込めた。
『んっ…あれ、悟起きてたの?』
ククッ、と短く笑う声と深呼吸してる呼吸音。少しでも悟の事を多く休ませたかったんだけどアラームで結局起こしちゃったか……。
後頭部ですりすりと頬擦りをされているのを感じながら、再び両手が胸下に回されている彼の手の甲を布団の中で私は撫でる。
「うん、おはよ」
『ん、おはよ~……』
日中は忙しいから、帰ってきた後から眠って次の日の朝のこういうのんびりとしたふたりきりの時間が好き。時間を忘れる程にこうしていたい、愛おしい私達の時間。
手の甲を撫でていたら「ねえ、こっちを向いてよ…」と甘い声で囁かれ、もぞもぞと私は布団の中で悟の方へと体勢を変えて彼の顔を見上げた。
私の背に引き寄せるような腕。まだ眠そうにとろんとした目元。非常にリラックスしていて目が合った時からふにゃ、ととろけた甘い微笑みを見せる悟。
それ、されると私も釣られるんだよなあ、と彼に釣られて笑った。
『ふふっ…、今日も朝から任務かー……』