第34章 その男の名は……。
ぱっと見は分からないけれど、染めて少しした髪の根元、若干プリンに(色合い的には逆プリン)なるはずを速攻見抜いたのは常日頃からぎゅっと抱きしめられ彼がくっつく故か…。私自身がなかなか気がつけないのを悟はすぐに見抜いていた。
一族内の領域からの消滅と引き換えに力を剥奪して、貰い受ければ術式は増えて強くはなれる……しかしその代償に術式を譲り受け生きた春日家の者の寿命を縮めるってデメリット。
祖母が持ってたものでこれほどだから、もしももっと強い術式を譲り受けたら……。譲渡、ただそれだけで死ぬ事だって。
……この慌ただしい医務室の忙しさ。
悟も他の呪術師と同じく、大量の呪いを忙しなく高専の外で祓ってるらしい。以前みたいな事にならないように高専外で仮拠点を構えての治療の際は呪術師が必ず側に居ることや、呪骸などを携える事って条件厳しくしていたけれど。
結局一番安全であるのは悟の側だ、と彼は言い、結局出来ない多忙から今回は高専内での治療!と念を押されてしまった。
わざわざ高専に戻ってきては治して向かうって非効率的なんじゃないのかなあ……。
文句を言おうにも身重かつ、任務や日常の中でアンラッキーを自他共に認めるくらいにすーぐ引き寄せるもんだから、変に悟に意見は言えないし!
『はあ~……』
「あの…、ありがとうございます?」
スーツ沿いの腕に触れたまま、治療を終えたままだった事に気が付き『おっと、』と女性の補助監督生から手を離す。マリアは手を止めてじっとこっちを見ていた。
「……一度、休憩挟みますか?」
『え、いや大丈夫です!このまま治療続けていきますっ!』
言葉に出さずとも大丈夫かな…とでも言いそうな表情でマリアは私から補助監督生の背に移し、補助監督生の彼女の背を押して「次、中に入って下さい」と誘導していた。
忙しいだとか疲れただとか文句言ってても仕方ないし、前線に出られないのならここが私の戦場。時々間は空くけれど忙しい時はひっきりなしにやってくるし…。
補助監督生の女性の背を押しながら私の側にやってきたマリアは声を小さくし「決して無理をされませんよう」と言葉を残していく。
休みらしい休みは無いけれど、これを乗り切ったらのんびりと旅行にでも行きたいなあ、なんて頭では現実逃避をしながら、悟もきっと頑張ってるんだから私も頑張らないと!と気合いを入れ仕事に専念していった。