第34章 その男の名は……。
以前……というか、悟に私が初めて出逢った時。
あの日の私は、地毛に混ざる白髪が増えていき、どうせなら白に染めようと考え、強くて優しい亡き母を目指した髪色に全て染めようと行動していた。
髪が伸びればその染めた根本から地毛色の髪が押し出していくように伸びるのは当たり前だけれど。皮肉にも、この前の一族からの"ヨミ"の追放の際に彼女が持っていた力を剥奪し、私へと譲渡を許可した鎹。完全に白に染まり切る、地毛の一部。
剥奪、それから譲渡……。そんな事が出来るんだ、と思った。だってそれは領域のあの人数を綺麗サッパリ消したり、または力の譲渡で悟程とは言わずとも強くなっていく事が出来るという事じゃん。
……後ほど、それを聞くために何度か治療を済ませたあの事件の次の日、呪力を溜めた私は鎹を自身に降ろして彼女に追放や剥奪、譲渡についてを聞いた。
──追放とは。
春日の始まりである鎹の審判の元、死者一同、そして領域を呼び出せる期待を込めた力を受け継いだ生者の意見の一致により初めて追放が可能となる。
私の母がぐるぐる巻きにされて拘束されていたのは追放が出来なかったから。
互いに傷付ける事も出来ず、ただただ拘束したという事……なら追放の手があったのでは?と思えば、その時点で死者の意見は一致してたけれど生者二名の意思が無いために出来なかった、という事。その頃って私と祖母のヨミがまだ生きていたから母は追放されずに済んだって事なんだ……!
初代の話により追放について分かったけれど、力の譲渡についてなにも知らないままに、末裔である私に一族の行末を押し付けられてしまった。
ヨミの呪いのみの譲渡、術者に呪いが近付けない簡易的な領域を作るという事。祖母は春日家では力を発揮出来るように"本家のみ"という縛りで家全体を常に守っていた…、けれど私はそこまでではなく、おびき寄せられる呪いを私に触れるよりも前に近付けない事が出来る、という事。
ただ、それだけ。縛りもない術式で呪いが近付けないだけで呪いを祓う事は出来ない。
術式を解いて呪力に触れさせるなら別だけど…。
ただ、それだけの能力の譲渡で私の髪の約10パーセント程の地毛は二度と地毛に戻らなくなってしまった。その白銀に染まった式髪は呪力を溜めているわけでもなく、領域から帰った後に「呪力が含まれていないのに白髪化してる」と悟に言われて判明した事。