第34章 その男の名は……。
331.
「ありがとうございました」
『はい、ではいってらっしゃい』
怪我が治り、頭を下げた補助監督生に軽く手を振って再び任務へと送り出す。
京都校の医務室に待機して、マリアと共に怪我人を連続的に治していく。ハロウィンを目前とした、一度死ぬ羽目になった忙しかったあの駅構内を思い出した。
でも今回は高専内だから基本、危険は無い。強力な呪いによる攻撃以外は私の術式ですぐに治せてしまう。大きな怪我だってさくさく治せてしまうので、つい最近溜め込んでいた呪力をすっからかんにした私にはこの医務室での治療祭りは丁度良かった。
四月の終わりからから五月へとちょうど京都校に来る時期は人々が観光地に流れ込む……そう、世間はゴールデンウィークってやつだね!
職業によってはその大型連休はたっぷり休みが取れてウハウハとエンジョイするけれど、生憎私はこれまでそういう職業に就いていなかった。非術師時代も…そして、高専に来た今も……。
学生時代のブラック"かもしれない"、はブラックだと言い切れる程、実際に高専に属する呪術師の立場となってマリアに補助をされながら、やっと今十何人目かの治療を終わらせた所。
……ドアの向こうに新しい人影が見える。
向こう側からひょこ、と上半身を乗り出してマリアが情報を伝えに、私を向いて少し声を張り上げてこちらへ話しかける。そんなマリアの横を先程治したばかりの補助監督生が仕事に向かっていった、ボロボロのスーツの背中。
「ハルカ、次の患者が来ました。補助監督生、男性、負傷箇所は右肘から手首にかけての裂傷。
出血量、多めですので現在はこちらの方を優先してください」
『了解ですー』
「その次の方は打撲による怪我ですからねっ!」
『はぁい…』
さくさくと判断し、優先度を見て医務室ドア前から重傷者から通していくマリア……医務室の外側にはあと何人並んでいるのやら…。
重傷者が居なくなければ呪術師から優先的に、そしてその次に並んだ順番通りに医務室に入って貰い、最低限の記入を診断証明書に書いてデスク上に積み上げられていく紙の束…。
朝からぼちぼち怪我人が来てはいたけれど、呪術師やそのサポートが忙しくなれば呪いによる攻撃を受ける機会も増えるのか、医務室にやってくる頻度が高くなってくる。
あー…朝から忙しいな、と半分までは遠い、白髪化の進んだ髪をわしわしと掻いた。