第34章 その男の名は……。
にこにこと嬉しそうな顔で、私がひとつ手に取った後に彼もひとつ手を伸ばして「美味しそうに食べるね」とすぐに口に運ぶ。もぐもぐと頬を膨らませて「うっま!」と美味しそうに食べてる。
見えない尻尾が振り回されているみたいにご機嫌でこっちも嬉しくなるよねえ。
美味しいものを一緒に共有するのって幸せな事だとか聞いたことあるけれど。確かにそうだよね、頬が緩まずにいられない。互いに手に取ったサンドを数口かぶり付く。
マンゴーや黄桃だとか。断面図の瑞々しい赤…やっぱりいちごも美味しい!
飲み込んだ後、彼のハムスターみたいに膨らむ頬を見て、私は可笑しくなって小さく笑った。
『──ま、とりあえずは名前の案をいくつか出しとくのは良いよ?けど身の回りの人たちの名前と被るのはマジで止めときなよ?……絶対に』
「やけに念を押すねえ~、もしかしてフリ?」
『んなわけないでしょ、ダチョウ倶楽部の上島じゃないんだから』
第一回っていう、傑とかの名前をボツにした件を思い出した。なんで悟、知り合いの名前で攻めていくんだよ、と思えばその人達のように生きていけるようにっていう、人生の鑑としての名前の案。
伏黒の時はからかう為って言ったけれど…。
彼は親指と人差し指でつまんだサンドでくるくると宙に円を描いている。
「僕はじゃんじゃん名前の案を出してるけどさー、オマエは息子になんて付けたいの?」
手に持っていた最後のひとくちをぱくりと口に入れた彼は指先で唇に付いたパンくずを、その後に両手の指先でパラパラとウッドデッキ上にパンくずを払っていた。
私も手に持ったままのフルーツサンドをぱくり、と一口。切り口はいちごや黄桃が見えていたけれど、他にもキウイも入ってたみたいで小さくプチプチとした感触とみずみずしい果汁を口の中に感じる。
もぐもぐと口を動かしながら観光客の多い歩道を眺めて考える。離れた場所を歩く鳩がテーブル近くまで寄ってきてた。さっきのパンくずを突いてんのかな?
私の口の中が空になってから悟を向く。
『例えばね、聡(サトシ)とか剛(ゴウ)とか、案ならいくらでも出せるよ?名前にどう育って欲しいかとか意味を込めて……。
けどそれが実際に生まれてきた子を見てそれは違うってなるかも、だし……ひとつだけの名前ってなると難しいなって』
「へー…キミも色々考えるんだねー……あ、なにか追加で頼む?」