第34章 その男の名は……。
「流石に東京・京都の学長が二人揃っての参加は緊急時を考えたらの。儂と反対に夜蛾は二回目の方に参加するという話をしてある」
『あー、そういう事もあるのかあ……分かりました、わざわざありがとうございます』
ぺこ、と軽く頭を下げてはがき二枚をお土産の上に重ねて。
その動作を見ていた学長は、はあ、と短くため息をつく。少し残念そうに肩を落として。
「ハルカ、オマエは多少間が抜けておる事もあるが基本はしっかりとしておる。そんなオマエを五条になあ……、何度も言うようだが今からでも遅くは無いんだぞ?一緒になる男を考え直した方が良いのではないのか?世の中五条以外にも男は居るんだぞ?」
毎回というわけじゃないけれど、学長は時々このような「ちゃらんぽらんな五条悟ではなく、もっとまともな人を選ぶべきだ」と説いて来ていた。
教員という立場故に多くの生徒を見てきたはず。それは学校が違っても交流があるのだから私よりも長く五条悟という男を知っている。私のまだ知らない、彼の"良くない部分"を多く知ってる学長。そしてもちろん、悟の"良いところ"も…。
ふざけてばかりな態度にイラッとくる時だって私にもあるよ?空気読めって……。
学長はそんな未だ落ち着かない悟とこれから何十年と、私や悟が死ぬその時まで一緒に居るって事を心配してる…。高専時代から教員になった悟を知ってる学長が言葉を何度も繰り返すのは、耳にタコが出来そうなくらいに色んな人から心配されているからよく分かる、でも……。
そっと自身の腹部に触れた。学長の悩みのタネである悟との何度も頻繁に愛し合った結果がここに命を繋いでる。
以前は本当にこの中に人間がいるのかすら怪しく、不安でただただ体調にばかり症状が出てたけれど、ここの所分かるくらいにお腹が膨らんできていた。
それだけじゃなくて少しそれに合わせたのかちょっと太った、というか…胸も以前よりも大きくなってきた、と言いますか。
京都から東京に帰ったタイミングで検診に行くのだけれど、医者に言われる前に、写真で見る前に性別が判別された今、触れているお腹の中には男の子が。夏の終りから秋に掛けてに生まれるであろう、誕生の時を私も悟も待っているんだ。
『いえ、楽巌寺学長。私は五条悟だからいいんです。悟だから一緒になる事で安心するんですよ、……色々と』