第34章 その男の名は……。
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医務室に持ち込んだ書類を片手にノートパソコンに向かってパチパチと打ち込んでいると、背後奥のドア…外側からの落ち着いたノック音が聴こえる。皆勤賞の学長か?と思えば「入るぞ」という声。ハイ、まごうことなき学長でした、と今日も学長の体の不調取りです。
歳を取ると毎日そんなに体が軋んだりするものなのかな?とも思うけれど、吸い取る"負"は誤魔化せない。日常生活を送るにそんなに違和感のない程度のもの。
多分、最近大きな事件とかもなく、問題もなく。だから学長として慌ただしくなることがなくて暇なんでしょう。だからここにおしゃべりしに来てんだなー、と私は思ってるんですけれど。
「よう、ハルカ。今日もすまんの!」
ニカ!と笑う爺さんなのにゴテゴテのピアスがなんともヤンチャしてる。悪い人じゃないんだけど悟がなんかやらかしたみたいでここの学長は悟が苦手みたいなんだよねー……。
学長に笑い返した後に医務室のど真ん中の椅子を私は指した。
『いえいえー、お構いなく。どうぞ座ってくださーい』
お茶、お茶…、といくつかの湯呑が伏せてる中から手にとり、お茶を蒸らしてる間に座った楽巌寺学長の肩に触れて吸い取った後、カリカリと机の空いた所に紙を直置きして記入していく。書き慣れた作業、名前もすらすら書けちゃうもんねー!
「……そうだ、どうせオマエがここにいるのならとな、これを持ってきたんだが」
人体図にペン先をつけ、本日の不調箇所である膝に丸を書いた所で椅子ごと振り向いた。学長の懐から厚さの薄めな小さな木箱と共に差し出されたはがきを受け取る。
……木箱、なんだろ?と顔を上げれば箱を指差す楽巌寺学長。
「そいつは京のよすがだな、小さな甘い物がたくさん詰まっとるやつだ」
甘いもの、とひとくくりにされたからにはどんなものが詰められているのか分からないけれど、強すぎない様に静かに揺すれば、確かにカラカラと小さなものがぶつかる音が聴こえる。ぶつかり合って壊してしまわないように、そっと机に置いて……。