第34章 その男の名は……。
『今日だけで決まんないんでしょ。無理に案を出さずにのんびりと決めようよ。別に今日明日生まれるわけじゃないんだからさ?』
一生モノの名前なんだし、一日でぽん!と決めてもね。意味だとか、幸せを名前に込めて良い人生を送れるようにと願ってさ。
名前ってその子を想う親達の最初の愛情らしいんだけど、こうも話し合ってる瞬間も私はなんだか幸せだと感じる。じっと見上げた彼は変わらず真剣な顔をしながら私の方を見てる。
「……うん。意気込んだはいいけど難しいねー、名前って。僕は悟、キミはハルカって違和感なく認識しあえて皆にも認められてるけれどさ?
親っていうのは凄いねえ、名前を付ける事でさえ、重要な親の仕事だもんね。犬や猫とは違うんだ、ひとりの人間となる子供への名前は慎重になるわ」
鍋を揺する悟は切ってある野菜から鍋にと入れ始める。あ、まだ私切ってる途中だった!
包丁を持ち治して玉ねぎを切り始める。視線は流石に切る食材だけどさ、そのままに悟との話しは続けられるもん。彼の言った通り、口で済む話なんだし。
『とりあえずは私達の周辺に居る人物名は皆が混乱しちゃうからナシにしようね?』
シャリ…トン!と音を繰り返し瑞々しい玉ねぎを切っていく。
目が痛くなるな、これ。とん、と肘で『涙避け』と伝えると悟は片手を私の肩に乗せる。
ちら、と見た所悟も調理に集中してる様子。
「……えー?いいじゃん、傑~……いいじゃん、健人~…。
強く育ってくれて皆が信頼して着いてくる!とかさ、何事にも真面目に取り組んでくれそうじゃん?アイツら見てればそういう生き方に沿ってくれそうでしょ?」
『……』
「手、止まってるよ?」
『あ、うんすぐ切るからまって、』
……あ、意外と嫌がらせじゃなくて実際に良い生き方をしてるから彼らを見本にって理由だったわ。
ぽかん、と口を開けてしまったのを閉じ、残りの玉ねぎを切り終わってからそれらを鍋に放り込むと、悟はそのまま鍋に水を入れていく。こっちの寮の戸棚にベイリーフあったかな…、以前こっちでカレー作った事あったし…、とうろ覚えで戸棚を探せば二枚残ってた。丁度いいや、今回使い切りって事で入れちゃえ入れちゃえ。