第33章 これは終わりではなく始まりの刻
……ここでは流石に吐きたくないかな。必死に我慢して、もう一度安心出来る悟にしがみつきたかった。ぎゅっと、彼の背の服を掴んで早くこの空間の一族の汚点を、人としての最低な行いの春日の傷痕を消して欲しいって。
──生まれるはずだった子たちをこの小さな箱から早く解き放って欲しいって。
狭い空間に渦巻く風が止むと最後にカラン、と棚だった板が倒れた音。それで静かになった地下の空間。
「──終わったよ、ハルカ」
風が止めば、ずん、と重力の強くなったような重たい呪いを含む空気も軽くなってた。呪いが呪いによって綺麗に祓われたんだ……ただ、干からびた肉の立ち込める良くない臭いに満たされていて、気持ち悪くて一刻も早く立ち去りたいけれど。
『……ありがと、悟…』
「お礼なんて言われる程じゃないさ。キミの旦那さんとして奥さんを手伝っただけ」
笑みを浮かべているだろう彼がランプに照らされてもよく見えない。ふるふると水没して、瞬きすればその原因が頬を伝って流れ落ちていく。にっこりと微笑んでる悟がようやく見えた。
『それでも言わせて。ありがとう、悟』
私は悟の胸に飛び込み、片手でぎゅっと服を強く掴んでボロボロと涙をこぼし続けていた。
そんな私をしばらく、優しく抱きとめて背中を何度も温かい手が落ち着かせようとしてくれる。私が泣き止むその時まで。