第33章 これは終わりではなく始まりの刻
今の私は溜め込んでた呪力は領域に行った事で枯渇し、皆から"負"を吸い込んで白髪化した髪色は地毛に戻っている……ただ、視界にたまに入るサイドの髪は一部が白髪化したまんま。
その理由も知ってる、でもその白髪化部分は呪力を溜めてるからって意味じゃないし、私が今出来る事は彼に"壊して"と頼むことだけ。
壊して、それを見届けるのが家守という悪習を締める為の末裔の女として出来る、精一杯の事。
悟は私の頭を撫でる手を止めて、ぽんぽん、と優しく叩く。柔らかな笑みが頼れて、そしてちょっときゅんとして惚れ直しちゃったりね…?
無限を張るためという密着した身体。ぎゅっと彼の服を掴む力が増した。
「上で待つ歌姫としては高専でひとつくらいは保管しろって頼みたかったからオマエに質問したんだろうけど、高専の教師としてではなくオマエのこの一族としての意思を尊重したんだろうな…。
僕も歌姫と同じくハルカの意思を尊重したい。これら全部、僕がハルカの腕として代わりに壊すよ。特殊な特級呪物だから本来は高専に保管命令が下ったろうけど……僕は特級呪術師とではなく、高専所属の教師としてでもなく。五条ハルカの夫として……。
春日家の当主のオマエの夫としてもキミの在り方に沿いたい」
『……うん、ありがとう』
「ふふっ、どういたしまして!」
少しだけ離れてね、と私を引き離した悟は龍太郎も背後に避難させて術式を使う。
彼の呪力の交じる風がいくつものコトリバコの存在を、これからの未来を否定し、綺麗に組み込まれたであろう、見た目は美しい工芸品をガラガラと組み木を崩して破壊していく。
木材とは違う破壊音、カシャン、という音はきっと呪物にされる前の小さな亡骸の収まった物が破壊された音なんだ……。
呪いが呪いによって力の差で祓われていく様は豪快だけれど悲しくも感じる。
全ての箱を原型を留めない程に悟は破壊していって、やがてなにか少し干からびたもののような生臭い空気が鼻の奥に届いて、その臭いの元を想像しては口に手を当てた。