第33章 これは終わりではなく始まりの刻
私が見上げた彼はランプに照らされながら、壺から私へと視線を降ろす。口元に僅かに笑みを浮かべて。ランプは一定の明るさを保ち、龍太郎が壺の方に数歩進み、その前で立ち止まって私達側を照らしてる。光源が移動するから箱の影が伸びるのに内心ビビったりしてね…。
「気になるのでしたらこちら、私が中を確認しましょうか?」
「いい、止めて。多分、刺激が強いからハルカには見せたくないし、龍太郎もトラウマになるよ」
龍太郎が壺に手を伸ばしかけた所で引っ込める。彼も私と同じく壺が気になってたようで。
せめて何か、中のものを知りたくてさ、開けなくても知る方法はないかと悟の顔をじっと見ていると、彼は「分かったよ、」と肩を落とし壺をまっすぐと見ている。
「……"コトリバコの材料"。雌の家畜の血液はいつだって入手可能でも、呪いの元となる人間の水子はいつでもすぐに準備出来るってものじゃない。人間の腹の中で、然るべき時に育まれる命だ、しかも春日家のみとなると人数も限られるしタイミングってのもあるだろう。
あの壺はね……例えば、ゴホウを作るとしたらその五人分の子供が集まるまではあそこに溜めておくんだ。例え、ミイラの様になってしまっても呪いの元は呪い……、呪い自体は腐敗しないからねー、人として生まれる前に取り出された命は今度は呪物として生まれる時をその壺の中で待っているんだ…」
悟だけが話してる空間は静か…。
「……な?直接見なくて良かったろ?」
視線が私に降りた時ににっこりと口元で笑う。それを聞いた私は途端に気分が悪くなった。吐き気のみじゃなくてこれは胸糞が悪いというか。吐瀉物が込み上げるとは違う、蔑む方向での気分の悪さ。
『……気持ち悪い』
「"それ"をヨミ様が作っていた、という事ですか…?」
見なくて正解。見ていたらきっとその場で我慢出来ずに吐いてた。
他の春日の誰かから男の子だと判明した時とかに抜き取ったのかもしれない。材料が足りないからって祖母が自身の子をそこに詰めていたのかもしれない。
私にとって、自身の中に居る子はそのようにされたくないし決して人を呪う為の道具になんてされたくない。まさかのタイミングで性別が判明してしまったけれど、あの婆さんは自身の腹に男の子が居ると分かれば呪物にしていたんだ……。女、女って騒いでいたのは自分が家守で、呪物を作っていたから……!