第33章 これは終わりではなく始まりの刻
確かに、私から見えているのは箱の真上からというわけじゃないけど。天板の端から側面とか、側面中央にべったりと呪符が貼られていてそれらは今にもペロンと剥がれそうなくらいにボロボロで……。
これらが今日よりも更に数ヶ月保ったとしても数年保つか?と言われたら首を縦になんてとてもじゃないけど振れない。
……今の私には悟のような眼を持っていないから、呪いを帯びた箱程度にしか感知出来ない。ボロボロでもその呪符は呪いを箱の中へと抑え込めるくらいに強力なものなんだ……、これらがひとつでも解けてしまっていたら…。
悟の言う通りの展開が在ったかもしれない未来。呪いの地、春日家になってた。
龍太郎にピックアップされたその箱だけじゃなく、周囲にたくさんあるそれらに視線を向けた悟は鼻で笑っていた。
「直接来れなくても呪力をこの部屋だけ、棚に送れるよう紐みたいなもので部屋と繋げてたみたいだけど。それも婆さんが死んじゃえば抑える力は完全に断たれるんだ。遅かれ早かれ犠牲は出てたし、むしろまだ治せる程度の犠牲で判明したならタイミングとしては僥倖だね。
……そこの棚の、特級呪物のコトリバコ、ハッカイ三つはマジでシャレにならない。完全に封印が解かれる前で良かったよ…」
木箱は古いものから新しいものまでたくさんあるけれど。直置きで、蓋付きの壺もふたつほど見かけた。
ここは勝手に行動して触ったら本末転倒。今悟に触れているから"もしも"があった場合に守ってくれるけれど……離れたらアウト。
くっついたままに悟の背をとんとん、と叩いて私を見た彼に気になった壺を指差す。悟は私からその壺へと顔を向けた。
『……あれ、あの壺には何があるの?』
箱ばかりある中で壺があるのが異質に感じる。だってコトリバコ、というんだから壺があるのはおかしいじゃん?だからその眼なら正体が分かるんじゃないかと悟に聞けば、彼はあまり良い反応をしない。
「なに、オマエはアレが気になんの?気になっても中は見ない方が良いと思うけど……」
『そう言われると気になってしまうっていうね……』
きっと彼には壺の中身が視えるんだろう。私には砂埃を被った呪力を纏う壺…、のように感じるけれど。
「小さいことが気になってしまう、僕の悪い癖!」
『……杉下右京か~?』
「デーンデレレーデッ、デデッデデッ」
『科捜研のテーマを口ずさむな~??』