第33章 これは終わりではなく始まりの刻
胸を張り、その胸にたんっ、と手を当てる悟。人間観察の域じゃん、愛も深すぎて重さもG掛かり過ぎてむしろストーカーじゃん、こっわ!呼吸に気を遣うわ。
躓かないように気を抜かず、ひんやりとした暗闇の中の未知の世界へ降りながら、私から目を離さず先に降りている彼を見てちょっと引く。
『呼吸まで耳を澄ませるのはちょっと……』
「ったりめーだろ~?だってスパダリだもん、奥さんが倒れたりしないように常に注意を怠りませんよ、この五条悟君は!どーんと頼ってよ、大船…いや、このグランサイファーにねっ」
『へー、すごいすごーい。ところで米びつに隠してた私の名前を書いたみかんゼリー、無くなってたんだけど悟食べたでしょ?』
「あーあー聞こえなーい!知らなーい!僕はグッドルッキングガーイ!」
『貴様かーッ!』
……犯人ここに現るってね。後で買い直してもらおうっと!
両耳を塞ぎながら下がる悟を見て進んでいくと彼の背にばふっ、と顔から突っ込む。そのまま悟が倒れないのはしっかりと緩やかな段差の上で立ってるからか。
『んっ、急に立ち止まらないでよー…』
「メンゴメンゴ」
立ったまんまの悟の片腕を持ち上げ、脇から進行方向を見れば階段の終わりのやけに嫌な雰囲気と禍々しい呪力を感じる。上に届かずともこの空間内に籠もってるんだ…。
呪力が籠もっても、ここに呪いが発生していなくてまだ良かった。発生してたら、どうなっていたのやら……。
「この空間が目的地のようです……、袋小路ですしね。しかし…そこら中に、ありますね………」
悟の背にしがみつきながら見た、ランプを持つ龍太郎が素掘りのドーム状の空間を照らす。腐敗の進んだ材木で補強されてるけど長居したくない。
引いてる龍太郎は口を半開きにし、光源であるランプを持ち上げぐるぐると彼がゆっくりと回れば、彼自身や直置きだったり、木でできたボロボロの棚の箱…、囲碁盤のようなモノの影も伸びた。
『……ここが、家守達が隠し続けた場所…』
春日の中でも一部の者が受け継いできた、悪習の産物の保管庫……。
悟の腕と脇の間から頭を出した私を悟がひと撫でする。そしてぽんぽんと軽く髪を撫で付けて。
「ハルカ。僕から絶対に離れちゃ駄目だ、いいね?」
『……うん』
真剣な声の悟に私は頷き、複数の視線を感じる中でぶるりと一度体を震わせながら、彼の服をぎゅっと握った。