第33章 これは終わりではなく始まりの刻
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きょろきょろと周囲を確認する、ここ……集大成"鎹"の領域内が初めての三人。「囲まれている…」という歌姫の小さな言葉が周囲のざわつく言葉の中で聴こえてきた。
この場に私達が現れた瞬間から全方向を、春日に生まれ術式を持つ女達が取り逃がさまいと囲んでいる。私も周囲を見て、ほぼ同じ格好の人達の中から母を見つけると片手を挙げた。『久しぶりー』と。私の母も"おひさー"って手を振り返していた。
ただこの場に雑談をしに来たんじゃないから私は次に母から祖母を探す。今回の用事は婆さんの方。
皆顔を隠しているけれど、特に話をする人とは顔を見ずともピン、と分かる。なんなんだろうね?背丈とか多少の髪型で判断は出来るんだろうけどそれとは違うなにかでこの人は私の母だ、とか直感に近いものがあった。確定している事じゃないけれど領域内から呼び出している人、だからかな…?
そんな直感のようなものでも分かりやすい、ある程度年齢のいったひとりを向く。白装束の中一人だけ朱い衣を纏う鎹と、彼女の割と近くに居た私の祖母、ヨミ。
ヨミの近くに向かっている途中、私達を囲んでいたその輪から一歩踏み出した鎹に声を掛けられた。
"ここにオマエが来るのが久しいな、と思えば連れてきた者たちはやけに数が多い……、何度か来ている五条家の者も居るという事はこの者たちを殺せ、という訳ではないのだろう?"
『ああ、うん。鎹……、』
祖母、ヨミの元に向かう前に鎹に話しかけられて足を止めれば、彼女は顔を下に向ける。
"子を成した、と………しかしその性別は男子(おのこ)か…"
『おの、こぉ……??』
おのこ…男の子って言ってるの?
手を腹部に差し出し、まっすぐと腹部を見た彼女。鎹の周囲に居た他の春日の血族もわらわらと近付き、じっと私のお腹に視線を落としてるせいか、顔を隠す布がひらひらしてる。数人その横顔から口ものが見えたけれど、それは嬉しそうに笑みを浮かべる顔であった。