第33章 これは終わりではなく始まりの刻
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「単刀直入に言うと……春日家の主の間、その畳の地下。そこに呪物が封印されている。おそらくはコトリバコだ」
『は…?』
ただでさえ静かな敷地内で悟の言葉により更に静まった室内。目を瞬き悟を皆が一斉に見た。隣の席の私は悟の顔をマジか…と覗き込んだ。
そんなの、冗談じゃない。だって、コトリバコというものはこの春日に置いておくには一族の在り方と正反対の性質の呪物だから。
覗き込む私を向く悟。向いたタイミングで私は口を開く。
『コトリバコって……春日家に?ないでしょ、ナイナイ。だってそんなものがあったら本末転倒じゃん。増えて増えてってやってきた一族なんだし……。
いや、今は私だけになってるけど。
特に女、子供に危害を与えるものがここの家に一番あってはならない呪物じゃん』
「てか五条、そっちの高専で捕らえた呪物作ってた男が吐いた情報のコトリバコの個数……、アンタ全部廃棄したって言ってたじゃない」
それは確かに歌姫の言う通りなんだよね。悟は私を放置してまで、あの男から絞り出したコトリバコの数を全部破壊してたはず。まさかそのヤタベが吐いた情報以上に世間に流通していたって事?ヤタベ自身が隠した数、それとも数え間違いだとか…?
よりによってどうして春日家に……。
呪術を使えるから知ってるというわけではないらしく、控えめに手を挙げたマリア。
「あの…、ことりばこ、とは一体どのような呪物なのでしょうか?」
「……そうね、コトリバコについてをここで簡単に説明しておきましょうか」
その問に応えたのは歌姫。机の上の湯呑を両手で抱えながらマリアと龍太郎を見て、簡潔に説明をする。
「複雑な木のパーツで組み立てた箱に水子や間引いた子供の身体の一部を入れて、呪う対象の家に忍ばせるとその一家を呪う事が出来るのよ。興味を持たせる形状で対象を誘うトラップ型の呪物……一家を滅ぼす呪いの箱ね。
特に女性や子供を対象としてある程度の年齢のいった男性には呪いの効果はなく、また老婆にも効果はないって聞くわ。
中に入れる子供の数が増えれば呪いの効果が上がるんだけど、そうなると名前も変わっていくの。イッカイは最低ランク、最高ランクはハッカイでハッカイにまでいくと特級呪物に認定されているわ」